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 中国ウイグル自治区のイスラム教徒への弾圧、チベットで今も続く仏教徒への弾圧、一国二制度を無視した中国中央政府の香港への強圧的態度などは、2020年に持ち越される重要な人権課題です。ブレグジットに象徴される民主主義国家の意思決定の煩雑をよそに、独裁的体制国家が台頭した1年でした。

 中国、ロシアという国連安全保障理事会の常任理事国5カ国の中で、全会一致が必要な重要案件でいつも他の常任理事国に同調しない、この2カ国は国連の意思決定を骨抜きにしています。その彼らが最も嫌悪するのは人権問題をかざされる事です。米オバマ政権時代に対中国、対ロシア関係が冷え込んだ理由の一つは何かとオバマ政権が人権を持ち出したからです。

 どんな経済発展しているとはいえ、国内外で人権を蹂躙する行為を繰り返せば、国家の評価は下がります。面子を重んじる中国、大国意識の強いロシアには堪えがたいことです。韓国が従軍慰安問題を世界に吹聴しているのも自国の評価を高めるために日本の評価を下げるのが目的です。

 私は国際情勢のみならず、ビジネスの世界でも人権への配慮は2020年の重要テーマになると見ています。昨年から本格化した女性の人権を守るための「MeToo」運動や 最近、英大手スーパー、テスコの上海事業所で受刑者を強制労働させていた問題も、環境問題と並び重要さを増しています。

 とはいえ、私自身は左翼思想を持つ過激な環境活動家や、フェミニズムの活動家に与するものではありません。なぜなら、そこには別の政治的目的や伝統を破壊し、世界を無秩序にするリベラリズムが潜んでおり、被害者意識ばかりが強く、利他的に生きようとする人間の本性を否定しているからです。

 カトリックの高校学校に通っていた子供の卒業ミサに、かつて出席したことがあります。その時の神父の話は今でも鮮明に覚えています。その神父は今後社会に出たり、大学に進学しても記憶に止めておいて欲しいことを一つだけ話すといって、「人間の価値」について話しました。

 「神様は人間1人1人を自分の形に似せ、想像された。すなわち、神が絶対的な価値を持つ存在であるように人間1人1人も絶対的価値がある。そのことだけは忘れないで欲しい」と神父はいいました。つまり、経済的豊かさや能力、容姿など外面的な属性とは一切関係なく、人間は等しく絶対的価値を持っているという話です。

 「このことさえ覚えていれば、他の人を傷つけることも自分を卑下することも間違っていることが分かります」と神父は続けました。その考えを持っていればセクハラもパワハラも起き得ないという事です。これは西洋キリスト教文明が生んだ基本的人権思想を明確に表すものです。

 その西洋ではキリスト教は衰退の一途を辿っていますが、信仰を離れて残された人権思想は欧米先進国の価値観に深く根ざしています。無論、人権に配慮するしっかりとした思想があれば、なぜ植民地争奪戦に明け暮れ、奴隷制度を肯定し、戦争を繰り返してきたのかという疑問はあります。

 さらには許しと寛容を説くキリスト教国家アメリカが、9・11テロ後、報復に出てアフガニスタンやイラクを攻撃したのは、汝の敵を愛せよ、右の頬を打たれれば左の頬を差し出せというキリスト教精神とは矛盾するものです。今は米中貿易戦争で報復を繰り返しています。そこには愛の神だけでなく、キリスト教には不義という間違ったことを許さない正義の裁きの神も存在するからです。

 無論、アメリカには神の国という意識があるので、悪を打つという特別な論理もありますが、その理屈は世界的に認められているわけではありません。世界を支配する中華思想を国是とする中国共産党も自らの正当性を主張し、真っ向から対立しています。

 しかし、人権への配慮は、より普遍性を持ったものです。それは個人の人権だけが尊重されるだけでなく、家族を尊重することや、人間が利他的に生きることを大切にするという意味での人権です。行方不明になった2歳の男の子を救出して話題になった尾畠春夫さん(78)の困った人を自発的に助け続ける行動には、誰もが感動したはずです。

 ビジネスの世界でも目的は人間の生活の質向上にある事は間違いありません。にもかかわらず従業員の家庭や人権を無視したマネジメントは矛盾しています。生活の質向上への意識が益々強まる世界では、人権に配慮した職場に人は集るようになっています。

 アジアの高度技術者が最も働きたくない国1位という日本の不名誉は、従業員1人1人の人権への配慮が薄いからです。背景には主人に下僕として仕える歴史的に備わった下僕の精神構造もあるでしょう。下僕には人権はありません。かつて奴隷は家族が引き離され売り買いされていました。企業が従業員の家族を犠牲にすることを厭わないのも、どこか似ています。

 会社への忠誠心や愛社精神ばかりが強調され、競争に打ち勝つために実力のない者を淘汰し、人として扱わないという姿勢は、世界的には評価されないものです。むしろ1人1人の能力を引き出し、活かし育てていくリーダーの能力が問われていることを認識してほしいと私は思っています。

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