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 今や私のようなグローバル人材育成を専門とする者の間では、ラグビー日本代表は多文化チームを成功させる好材料として注目されています。特に「One team」のキャッチフレーズが脚光を浴びています。最近、某大手日系企業のシンガポール支社長を務める友人から「日本本社はあれから、何かにつけ”One team"になれと号令を掛けられ、困っている」という話を聞きました。

 聞けば日本国内では、多くの企業上層部が同じ号令を掛けていて、現場は困惑状態と伝え聞きました。日本には「一体化」「全体野球」「一丸となって」など、昔からスポーツのみならず、あらゆる場面で一体感は強調されてきました。いわばOne Teamというキャッチフレーズは日本人のDNAに刻まれたもので大いに共感もしているのでしょう。

 過去には終身雇用や家族的経営が当り前の時代に一体化が強調され、戦争時には敵に勝つためには上官と兵士、兵士同士が一丸となることは必須といわれ、そのチームワークは相互の協力関係、助け合い、和の精神によって支えられていました。さらに私がいつも指摘する、ご主人様や全体のために犠牲を惜しんではいけない下僕の精神や仏教の無私の思想もあったと思われます。

 では、One teamと、日本が長らく批判されてきた個人よりも集団に価値を置く集団主義や画一主義と何が違うのかということです。昔はソ連共産党が国家目標の実現のために集産主義を掲げ、中国は「共産党への感謝」を強調し、中華思想での一体感を強調しています。

 下僕や無私、利他精神は、集団主義を妨げる自分優先の価値観は存在しないため、一体感を得るのは容易ですが、今では自分のことしか考えられない若者が増え、職場でも容易に同僚に積極的に関わる精神もなく、アメリカ人社員からも「日本の方が個人主義的だ」などといわれる始末です。

 ですから、One taemの中身を検証し、整理する必要があります。ラグビー日本代表チームの特徴は日本人、韓国人、西洋人、黒人、南太平洋諸島出身者などで構成される多人種、多文化です。その彼らを英国生まれのスポーツでOne Teamにするという多文化チームのマネジメントの話です。

 今、国際ラグビーリーグ連盟は、ラグビーをサッカーと並ぶ世界化に取り組んでおり、サッカーのワールドカップと違い、国籍を外した多文化チームを容認する戦略です。そこにはラグビーの世界化戦略における精神的な普遍主義の普及も見え隠れしています。

 興味深いのは、ワールドカップ世界大会の後の代表選手たちのインタビューで「最初からOne Team
ではなかった」「最初はサボる選手を批判的に見ていたし、不愉快なことはたくさんあった」と証言していることです。つまり、長い時間と忍耐を通してようやくOne teamに辿り着いたという話です。

 つまり、非常に纏めにくい多文化チームを、どのようにしてOne teamにしたかに注目すべきで、部下にお題目のように唱えていれば実現できるのものではないということです。それも鍵を握るのは選手ではなく、ヘッドコーチというリーダーにあったということです。

 私は全体目的と固体目的の実現は同じレベルで重要であり、両者がWin Winの関係にならなければ一体感は得られないと考えています。人間はたとえ徹底して利他的に生きたとしても、精神的喜びがなければ長続きはしません。逆にいえば精神的満足度が高ければ、お金という報酬は最優先にはならないということです。

 多文化チームということは価値観が違うということです。個人個人の個性や育った環境の違いなどが複雑に絡まっています。そのため、チームに参加する人間1人1人のモチベーションや目的にも違いがあります。しかし、スポーツはビジネスと違い、多文化を纏めやすい要素も持っています。

 それは、そのスポーツが嫌いで参加するアスリートはいないからです。中には授業料を払ってでもチームに参加したい選手もいるくらいで、基本的にはやりたくてやっているスポーツでモチベーションは千差万別とはいえません。そのため世界一になるという目標は容易に設定できるわけです。

 ビジネスは、目標達成自体の困難さから始まります。たとえその仕事が大好きだったとしてもギクシャクした職場の人間関係など劣悪な環境や低報酬ではやる気もなくなります。終身雇用時代のような会社への忠誠心もなくなりつつある時代です。One teamどころか簡単に転職してしまう時代です。

 つまり、One teamを実現する前提条件が必要だということです。その前提条件を作るのは会社側であり、リーダーです。部下に「ワンチームになれ」と号令しても何もなりません。

 One teamにしていくための信頼関係構築はどうすべきか、目標共有はどうすべきか、意思決定は誰が行うのか、一人一人の役割、権限、責任は明確になっているのか、全体目的と固体目的は同じレベルで扱われているのかなど、リーダーによるチームを一体化する環境づくりでやることは山ほどあります。

 そのリーダーが最初に持つ基本スタンスは、能力や結果で人を見るのではなく、どんな人間にも同じ価値があり、尊重すべきだという姿勢が必要です。その前提のもとにパフォーマンスを出す方法を考えることです。One teamは手段であり結果としてなっただけで、目的ではありません。

 それに日本人が考えるような個人を犠牲にするのがOne teamではなく、チームの一人一人が達成感という満足感を持つことが重要です。One teamは個人の主張を押さえ込んだ妥協の産物ではないということを、よく考える必要があります。

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