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 業務の複雑化でチームワークが世界的に重要さを増す中、リーダーとチームメンバー同士はどうあるべきかは重要なテーマです。ラグビーのワールドカップで1段と注目度を増したラグビーというスポーツも完全なチームワークのスポーツ。

 日本代表のヘッドコーチ、エディ・ジョーンズ(2012年〜2015年)、ジェイミー・ジョセフ(2016年〜現在)は、それぞれ指導方法は異なっていました。エディは、成果を出すためには選手が2度と参加したくないというほどの厳しいトレーニングを重ねることに重点が置かれ、ジェイミーは、すべてを受け入れ、包み込むビッグダディ的存在といわれています。

 2人の違いからいえば、ジョイミーは東洋人が好む大家族を纏める面倒見のいい父親的存在、エディはあくまでパフォーマンスを重視し、彼ら1人1人のスキルを引き出す欧米型といえるかもしれません。これは社会心理学者の故三隅二不二氏(1924-2002年)が提唱した世界的に知られるPM理論に置きかえることもできそうです。

 つまり、エディはパフォーマンス(P)重視で、ジョイミーはメインテナンス(M)重視ということです。どちらも目的は結果を出すことに代わりはありませんが、P機能とM機能の両方を同じ比重で備えた理想的なリーダーは存在せず、どちらかに強みがあるため、たとえばP型リーダーには、チーム1人1人を心配するM型の女房役が必要ということになります。

 チームを家族に例えれば、P型の父親にM型の母親がいて子供は成長していくというです。ドラッカーは「働く者が満足しても、仕事を生産的に行わなければ失敗であり、逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である」といっているのは、P機能とM機能両方の必要性を説いたものです。

 ハーバード・ビジネス・レビューに最近掲載されたリーダーやチーム論の専門家、マイク・ロビンズ氏の「従業員は2つの”承認”を求めている」という小論には、部下は常にレコグニション(成果を認める)、アプリシエーション(人間として認める)という2つの承認を求めていると指摘しています。

 これもPM理論に似た印象ですが、レコグニションは成果主義に由来し、結果という条件付きで特別賞与を出したり、表彰したり、昇進があったりすることですが、それだけでは同僚は全て競争相手になってしまい「気持ちよく働く職場」にはなりません。そこで成果という条件なしに人間としての全存在を認めるアプリシエーションがあれば、誰もが気持ちよく、いきいき働けるというわけです。

 では、リーダーに父親的、あるいは慕える師としての存在を求める日本は、パフォーマンスはともかく、アプリシエーションは十分なのかというと、そうであればパワハラは起きないはずです。アメリカの職場に日本人リーダーが入った時、問題になるのは、部下に仕事を頼むのに「Please」といわないとか、できた仕事に対して「Thank you」といわないことです。

 つまり、ロビンズ氏がいうアプリシエーションは、部下1人1人の人間として価値を認め、どんな結果であれ、基本的に部下の働きに感謝するという姿勢の必要性を説いているわけです。つまり、東洋に存在する地位による人間の上下関係ではなく、人間としては平等にリスペクトされるべきという考えに基づいたものだということです。

 ドラッカーは「弱点を直すより、長所を伸ばすことが有効」といいます。事実、ラグビーでは外国人も多い日本代表チームーですが、父親的存在であるジョセフ氏の下で力を発揮する日本人選手を見ると長所を伸ばすという意味では効果があったともいえます。

 しかし、一つ上をめざすとなれば、パフォーマンス機能強化にも注目すべきでしょう。エディが強調した選手一人一人の自発性、自主性は、その意味で重要です。ビジネスでいえば、自ら自分の役割を自覚し、目標設定を行い、コミットしていく姿勢を養うことであり、一方、リーダーは強い意思決定のもとでチームを結束させることで生産性を上げる必要があるということです。

 改善の余地があるということは日本には伸び代があるということです。しかし、そこには文化の壁もあります。だからこそ異文化の助けが必要です。異文化は自ら気づかないことを気づかせてくれるからです。

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