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 リーダーが職場で部下に声がけすることはマネジメント上、世界中で非常に重要といわれています。しかし、「調子はどうだい」と漠然として質問をしたら、大抵の部下は「絶好調です」とはいわないまでも「まあまあです」と答えるだけで、声がけで部下から本音を聞き出すのは難しいのが現実です。

 無論、「調子はどう?」と聞くこと自体は最初のアプローチとしては間違っているわけでなく、むしろ、「まあまあです」と答えが返ってきた後が問題です。コミュニケーションの精度を高める方法としてビジネススクールでは、アクティブ・リスニングが有効といわれています。

 アクティブ・リスニングの基本は聞き上手になることです。それも受け身の「聞く」ではなく「聴く」、つまり能動的に傾聴する姿勢が強調されています。そのメソッドでは部下から「まあまあです」との答えが返ってきたら、次ぎに「ところで〇〇案件で苦戦していたみたいだけど、今の現状はどう?」と具体的な質問に移る、その質問力が重視されています。

 人間は、自分に関心を持ち、理解を示す人間に好感も持つものです。部下は上司から、より具体的質問をされると「ああ、自分の抱えている仕事に関心を持ってもらっているんだ」と、心に響くわけです。そこまで辿り着いたとしても、次のステップを間違えると、全てが台無しになります。

 その踏み込んだ具体的質問に部下が「あの案件は、〇〇が理由で成果は出せないと思いますよ」と答えた場合、「それは、君の〇〇のやり方が問題だ」と、部下に非があるような発言をすると、部下の心は一挙に閉まり、やる気もなくなり、適当に受け答えするようになってしまいます。

 仕事ができる上司ほど、すぐに指導に入ろうとして空回りし、相手の学習の機会が失わせる例を私は山ほど見てきました。そのため、部下から、より具体的答えが返ってきた時に、すぐに自身の価値観でジャッジせず、自分の価値観は横に置き、部下の答えを確認する作業、すなわち「それは言い換えると、〇〇という意味かな」と確認する必要があります。

 特に異文化環境では、この確認作業は背景にある文化の違いからくる誤解を避けるという意味で非常に重要です。今では日本国内でも昭和生まれと平成生まれの世代ギャップは大きく、世代によって同じ状況でも驚くほど反応が異なったりするので、確認作業は重要さを増しています。

 その確認作業でも説教は禁物です。最終目標は本人の「気づき」ですから、リーダーのジャッジは必要ありません。確認するための何回かの会話の行き来の後は共感です。これが日本人には非常に苦手です。なぜなら同質性の強い日本社会は高度な共感社会で常識への共有度が高く、いちいち共感を口にする習慣がありません。

 それに日本では上司は部下とは同じレベルの人間ではないという認識が強いために共感を難しくしています。しかし、部下にしてみれば、上司が具体的質問をしたことで自分の抱える仕事に関心を持っていることを知り、確認や共感で自分に寄り添おうとしている態度を取ることで距離感が一挙に縮まるわけです。

 この丁寧なコミュニケーションは、仕事で成果を出してきた実力ある上司ほど、難しいということを私は様々な場面で見てきました。日本は職人文化が歴史的に根付き、最初の段階のテクニカルスキル習得で子弟の関係が残っています。テクニカルスキル習得段階ではある程度有効ですが、師の背中を見て学ぶ前提は部下の仕事習得意欲です。それがなければ、成り立たないものです。

 テクニカルスキルの次の段階である人を管理・指導するヒューマンスキルの段階に入ると、職人文化だけでは、どうにもなりません。特に掲げる目標に対して部下のエンゲージメント、コミットメントを高めるのは、リーダーの仕事です。つまり、部下の心をつかむ必要があるわけです。

 ところがリーダーに理系人間が多い日本では、もともと学生時代から人間より自然や物、テクノロジーに関心があった人が多く、特に人間の心理に対しては認識が浅い場合が少なくありません。それに上昇志向の優等生ほど自分の評価を高めるために上ばかり向き、下に関心を払わない傾向もあります。

 声がけの仕方や有効なコミュニケーションの方法論の根底には、人間自体に対する関心があります。人間が複雑で不確実性に満ちています。数字で割り切れる方がすっきりしていいと考える理系人間は、人間を面倒くさいと思うものです。

 しかし、信頼関係構築なしにいい結果を出すことは何においてもありえません。丁寧なコミュニケーションを支える人への関心が、驚くほどの効果を生んだ例はなんども見てきました。

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