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 ハーバート・ビジネスレビューに掲載された米シカゴを拠点とする戦略策定とパフォーマンス測定を専門とするコンサルティング会社、ストラテジック・ファクターズのグラハム・ケニー氏が寄稿した「戦略を確実に実行するためのシンプルな5つのルール」は興味深い一方、欧米企業には日本企業にはない別の悩みがあることが垣間見えます。

 経営者レベルの話で自分には関係がないと思う人もいるかもしれませんが、まず、ケニー氏はアメリカの企業には、素晴らしい戦略をお題目で終わらせる企業が多い現実を指摘しています。欧米のアプローチは程度の差こそあれ演繹的です。良く練られた素晴らしい戦略立案に非常に多くの時間とエネルギーを費やします。

 トップマネジメントの役割は、そこで終わりともいえます。つまり、彼らはヴィジョンやコンセプトを決め、それに伴う目標と人材と予算、期間を決めれるのが、彼らの責任の領域です。具体化するのは、その下の層の仕事という考えが強く、戦略コンセプトが正しければ、結果は出せるという演繹思考が存在します。

 たとえば、温室効果ガス削減を話し合う気候変動枠組条約締約国会議は、その典型です。頭だけで作業する役人が集ると、目標値を定めることには熱心ですが、実は具体化は各国に任されており、達成されない場合も罰則もありません。お題目で終わっている場合も多いのが実情です。

 結果、国連環境計画(UNEP)が昨年11月に発表した2018年に世界で排出された温室効果ガスの量が統計を取り始めて以来、過去最悪の多さになったとの報告が明らかになり、莫大な費用をかけての国際会議の頻繁な開催のわりには成果は出ていません。

 欧米諸国で最も演繹的で中央集権的意思決定で知られるフランスの自動車メーカーが、新車種を投入するトップマネジメントの会議に、アライアンスを組む日本の自動車メーカーの同じ層の日本人が参加し、ヴィジョンやコンセプト、目標値設定に膨大な時間を費やしているのに閉口したという話を直接聞いたことがあります。

 建築でいえば、最初の設計図の段階で間違っていれば、絶対いいものはできないというのが欧米的考えで、プロセス重視の日本は作りながら考え、調整しながら作り上げていく方に重点が置かれています。作ってみないと分らないことも、ものづくりでは、よくあるからです。

 欧米文化は、非常に科学的合理主義で、それが宗教といってもいいくらいなのに対して、日本は曖昧さも残しながら、現実への柔軟対応を優先し、ファジーなものづくりが得意です。

 欧米のビジネススクールは、あくまで欧米文化から生まれたビジネスモデルを学ぶ場です。この失われた20年といわれる時代に、アメリカでMBAを取得した日本人が帰国後、金科玉条のごとく、理論を振り回してうまくいかなかったのも、ベースにある文化の違いが大きいといえます。

 無論、世界的に見てそこそこ豊かな市場を持つ日本は、ある程度、日本的やり方で結果を出してきたために、時代の変化に真剣に向き合っていない別の問題もあります。

 それはともかく、大胆な展望に立った戦略立案が絶対的に必要な時代だからこそ、しっかりとしたコンセプトを作ることは重要です。同時にお題目に終わせないための進捗管理、プロセスでの改善も必要です。では日本はヴィジョンの具体化という意味で本当に優れているのでしょうか。

 今、高い品質を誇ってきた日本企業の製品が、あちこちで不具合を起しています。理由の一つは国外生産ですが、「日本製」といえば安心な時代も長くは続かないでしょう。なぜなら、終身雇用とか勤勉、会社の忠誠心に支えられた昔の企業精神は弱体化しており、薄給でも自分の持つ技術に誇りを持つ職人文化も消えようとしているからです。

 そのため、不得意なコンセプトづくりも強化しつつ、その事業の具体化には、日本人にしか通用しない報連相ではない別の進捗管理方法を考える必要があります。私自身はチームリーダーの意識転換が鍵を握ると考えています。チームを自ら率い見本を示し、自分に必要な情報は部下の報告を待つのではなく、自ら集めにいき、目標達成のためのチームの最大の支援者になることです。

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