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   2021年の完成をめざすリノベーション最中のNYティファニー本店


 世界最大手の高級ブランドを扱うフランスのモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)が25日、アメリカの宝飾品大手ティファニーを買収したことを発表しました。注目の買収総額は約162億ドル(約1兆7600億円)で同グループとしては過去最高額で、成長著しい高級ブランド市場の高額買収劇でした。

 ティファニーは創業1837年のアメリカ発の老舗ラグジュアリーブランドで世界に約300店舗を構え、オードリ・ヘップバーン出演の映画「ティファニーで朝食を」で一躍世界的に有名になりました。1940年にNYの5番街に引っ越したティファニー本店は、今でもNYの観光名所の一つになっており、そのブランド力は不動といえそうです。

 それがなぜ、身売りしたのかという話はさておき、ベルナール・アルノー会長兼最高経営者率いるLVMHは、ルイ・ヴィトンを主力とするバッグ、服飾ブランドの他、化粧品のディオールや宝飾品の伊ブルガリなど欧州の高級ブランドを数多く傘下に収め、アメリカの宝飾品大手ティファニーを加えることでイメージとして欧州一から世界一の高級ブランド企業になったともいえます。

 そのLVMHは、3年前に仏石油会社大手トタルを抜き、企業の市場価格は2,040億ユーロでフランス企業としてトップに躍り出ました。LVMHを含むエルメスやロレアルなどフランスの主要高級ブランドは、パリ証券取引所の主要銘柄で全体の27%を占め、フランス国内だけで50万人が雇用され、毎年1万人の新たな雇用を生む基幹産業です。

 考えてみれば、中東のオイルマネーに続き、中国、インドなどに次々と富裕層が生まれる状況を考えれば、高級ブランド市場は拡大する一方です。高級ブランド市場に詳しい専門家は、富裕層の世界的な確実な増加に加え、若者の間にもブランド志向が高まっており、市場の可能性は高まる一方だと指摘しています。

 フランスの宝飾メーカーに30年以上勤める友人は、ティファニーは、高級ブランドのイメージを維持しながらも大衆文化のアメリカらしく、手頃な価格帯の商品を揃えており、富裕層の下に位置する中間層以上の市場に手を伸ばすことができるのではと分析しています。

 宝石のデザイナーを長年している、もう一人のフランス人の友人は、アメリカ人と中国人、韓国人の嗜好は似ており、派手でゴージャスさを求めるのに対して、フランス人や日本人は控え目な中に高級感を持たせることを好む傾向があるといいます。彼はティファニーを欧州ブランドで占めるLVMHグループ内でどう位置づけるかは、新しい試みでリスクもないわけではないと指摘します。

 同買収計画は、10月下旬に明らかになり、当初、LVMH側はティファニーに1株あたり120ドルで買収提案し、ティファニー側が不服とし買収額が引き上げられ合意に至ったと報じられています。フランスの一般市民は「高級ブランドはフランスの代名詞で、今回の買収を誇りに思う」との声を仏国営TVフランス2は伝えています。

 LVMHによると、現在同社はアメリカで約33,000人を雇用しており、富豪のアルノー会長はトランプ米大統領とはビジネスマン時代から交流があることでも知られています。今回の買収劇をトランプ氏が不快に思っている可能性もありますが、アルノー氏は25日の声明で「われわれは献身的にティファニーを発展させていく。今後数世紀にわたり成長するのを楽しみにしている」と述べ、アメリカ発のブランドを尊重していく構えを見せました。

 実はLVMHグループにしてみれば、高額買収にも関わらず、グループ全体からすればティファニーの収益率は大したことがありません。それでもアメリカ市場を重視したのは、中国の景気後退や先行き不透明な状況を踏まえ、LVHMの地域別売上高では最大のアジアから世界で2番目に収益をあげているアメリカに軸足を移しているとも見えます。

 同時に実力をつけてきたゴージャス好きの中国が、世界の高級ブランドの買収や独自の高級ブランド立ち上げに動き出していることを警戒している面もあると思われます。今、フランスの服飾メーカーは地下の劣悪な環境で中国人が縫製に携わっている現実があり、高級ブランドでも修行に訪れる若い中国女性は後を絶ちません。

 確実な成長市場の高級ブランド・ビジネスを中国が見逃すはずがありません。私にはアルノー氏は野望と共に危機感もあることが伺えます。ただ、高級ブランドは長年の商品開発の積み重ねと努力で勝ち取ったブランド・イメージなので、一朝一夕に参入できる市場ではないことも確かです。

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