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 日本から送り込む営業マンを短期で変えてはいけない国は少なくないといわれます。まず、中国を含むアジア諸国、南米もそうです。たとえば、中国コストとか南米コストといわれる中には、交渉事に飲み食いが多いことを意味し、まずは人間として信頼を勝ち取る下地づくりに多くの時間と費用が掛かります。

 たとえば、ブラジルやコロンビアでビジネスをしようと思えば、彼らは名刺に書かれている大企業の名前や高い肩書よりも、その人物がビジネスをする上で信頼に足るのかどうかを慎重に見極めようとします。組織人間といわれる日本人は所属する組織で相手を見ようとするのとは対称的です。

 日本であれば、同じことをいっても、どんな組織のどんな立場の人間がいったが重視されます。たとえばフランスや英国では名刺交換を優先する文化はありません。「アポイントメントをとる過程で組織や肩書、名前は把握しているので必要ない」というわけです。

 打合せの最後に「名刺もらえますか」と聞かれる場合はありますが、最初にまず、名刺交換してからというのは不自然と考える国は少なくありません。そのため、ハリウッド映画などで日本のビジネスマンが、初対面の相手にペコペコしながら名刺を渡す姿は、日本人の特徴として描かれている例が少なくないのです。

 無論、交渉事では特に中国やアジア諸国、南米などでは意思決定は上層部に集中しているので、いつまでも権限のない人間と交渉しても時間の無駄ということもあります。その意味ではどれだけ早く意志決定者に会えるが目標達成の鍵を握ります。

 ではなぜ、肩書や権威よりも相手の信頼度を重視しているのかといえば、ビジネスは山あり谷ありで、その都度、様々な問題を解決していかなければならないからです。その時に人間同士の信頼関係が物をいうと考えられているからです。

 そのためには相手は力を持つ者である必要があるだけでなく、事情を理解し柔軟に対応してくれる人間的繫がりが重要というわけです。日本はどちらかというと組織と肩書で相手を信頼してしまう傾向がありますが、グローバルビジネスは何が起きるか分らない非常に高いリスクを抱えています。

 それに人間関係重視の国は当然、国内の同国人同士でも人間関係でビジネスが動いている例は少なくありません。そんな国とビジネスをする場合、担当者が変わる度にゼロから人間関係を築く必要があります。国にいっては外務大臣は同じ人物が長期担当する例が少なくありません。

 たとえば、元駐日中国大使の中国の王毅外相は2007年に日本から帰国し、外交部で要職を務めた後、2013年から外相を務めています。日本語も堪能で福田元首相を初め、日本に高いレベルでの人脈を持ち、強硬派に見えますが、両国関係の調整役として大きな働きをしています。

 ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相も2004年からと長期です。ソ連邦全盛時代のグロムイコ外相はなんと28年間も外相を務め、フルシチョフからゴルバチョフまで5人の権力者に仕えました。通常、政権が変わっても外交方針は変更しないという慣習があり、外相を据え置くケースも少なくありません。

 個人より組織が先にある日本では、担当者が変わることはしばしば起きることですが、グローバルビジネスでは得策といえないケースが多々あります。そのためグローバルビジネスの先駆的存在の日本の商社では海外駐在が長期化することがしばしばあり、その国に定住するケースもありました。

 信頼関係構築に必要となるのは個人の人間力です。日本国内でもオープンマインドの人間が営業に向いているといわれますが、グローバル環境での成功者の多くは非常にポジティブでオープンマインドです。オープンマインドということは、自分で自分のことをよく理解しているということで、本音と建前のギャップが少なく、相手から見て分かりやすい人間です。

 途上国であればあるあるほど、権力者は目まぐるしく変わるので、組織や権威はあてにならず、人間関係はさらに重要です。日頃から人間関係を積み上げていくための努力が必要で、公私ともの付き合いも回避できません。そのため無趣味よりも多趣味で好奇心が強い人間の方が成功している場合が少なくありません。

 当然、コミュニケーションスキルも要求されます。特に見えにくい異文化同士では、聴き上手な人ほど、人には好かれます。さらっとした人間関係を好む日本人は、濃厚な人間関係を求める途上国では自己改造が必要です。

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