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 海外赴任うつを回避する方法は様々ですが、仕事とプライベートのオンオフの使い分けは非常に重要です。日本人はその使い分けが苦手だといわれています。その点、欧米人の多くは、一般的にオフを楽しむことが得意といいます。

 ロンドンの金融機関の法務部門で働く英国人のK氏は、職場がのんびりしていてプレッシャーも感じず、オフでは南フランスやスペイン、エジプト、アメリカに行って、超自然の中でトレッキングや刺激の強いバンジージャンプをしたりと、シングルライフを謳歌していました。

 ところが上昇志向の強いK氏は、同じビルに入っている別の金融機関から誘いを受け、魅力的なポジションと報酬を提示され、すぐに転職を決意しました。ところがその銀行は高いのルマと結果に対する責任追及の厳しい会社で、エレベーターで出会う元の職場の同僚と昼食を共にした時「転職は後悔はしていないが、長くはいられない」とこぼしたそうです。

 実は話を聞いた元の同僚もK氏に誘われて転職を考え、踏みとどまった経緯がある人物でした。とにかく、今のK氏は別人で、うつ状態に陥る危険もありそうだったといいます。K氏はストレス解消で何度か南フランスの渓谷でバンジージャンプをしたり、カヌーを漕いだりしたそうですが、喜んでいない自分を感じ、オフの過ごし方を変えるべきか悩んでいたそうです。

 最初は「きっと上に登っていくということは、そういうことなんだろうな」と思っていましたが、新しい状況になかなか慣れず、限界も感じ始めていました。そんな折、世界的にも知られる人道支援団体のNGOで週末、友人に誘われてボランティア活動をしてみたら、なんとも今までにない充実感を味わい、自分をリセットすることができていると感じ始めたそうです。

 その団体はアフリカから命懸けで地中海を渡ってくる難民・移民の世話をするというもので、最初はハードルが高すぎて、オフの週末にさらにストレスを溜める可能性があると心配していたそうです。しかし、命懸けで古船に乗って渡ってくるアフリカの人々に接すると、自分が日頃、ロンドンの金融街シティで接する種類の人間とはまったく違うところが新鮮だったというのです。

 金融街で働く人間の頭の中はお金と野心で一杯で、ピカピカのオフィスで働き、高級マンションに住み、贅沢な休日を過ごすのが人生の中心でした。しかし、紛争や貧困を逃れてくる人間の世話をしていると、生きていくことそのものが難しい人が、こんなに世界にはいるのかと驚かされたといいます。

 それに何より、小さなことしかできない自分に対して心から感謝する人がいることが新鮮でした。職場でそんな感謝のされ方を味わったことはなかったからです。無論、いいことばかりではなく、溺死して遺体となって海に漂う子供を見た時は、心臓が止まりそうだったそうですが、とにかく、今まで動いたことない心の部分が動いたといっています。 

 昔は、他の英国人同様、南フランスでのどかに暮らすことを夢見てきたK氏でしたが、今は、そのNGOの職員になってもいいくらいの勢いです。自分のことしか考えていなかったK氏のあまりの変わり様に、元同僚も驚いています。無論、NGOの世界も綺麗事だけではないことは承知していますが、それは職場で鍛えた耐性で乗り切っています。

 40歳になるK氏は、少なくとも自分を必要としてくれる人がいて、無償で役に立てることの喜びを味わっているそうです。同時に仕事のオフの過ごし方で、刺激を求め楽しむことばかり考えてきた自分の間違いに気づいたといいます。

 この30年、ビジネス心理学では仕事もオフも「楽しむ」がキーワードです。文化のダイバーシティも違いを楽しむのが重要といいます。その辺のことをK氏に聞いてみたら「新しい職場は正直楽しめるとは言い難かった。プレッシャーをかけてくる上司に潰されそうにもなった。今でも仕事を楽しむレベルではないけれど、少なくとも今は職場で一喜一憂する自分ではなくなった」といっています。

 自分が喜ぶことをするという場合、自分だけが刺激を感じる喜び方から多くの人に喜んでもらう喜び方まで様々です。ビジネスもマーケットが求めるものを提供するとか公益性という意味では、人のために間接的になっているわけですが、とかくお金が絡むと単純に良心が喜ぶことをやっているとは言い難いのが現実です。

 稼げる職業と意味のある職業は、なかなか一致しないものです。アメリカで毎年公表される「意味のある職業」のトップに大学入学資格試験を支援する教師がいるのも、逆境を生きてきた若者を助ける価値ある仕事だからです。今、先進国の若者の間では、一方でIT革命で超富豪になることを夢見る人間と、意味のある人生を送ることを中心に考える人間がいることが統計数値にも出ています。

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