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 香港でエスカレートする民主化抗議デモ、もはや逃亡犯条例改正反対や林鄭月娥行政長官辞任要求などのレベルをはるかに超える段階に入っています。身の危険を感じる香港警察は暴徒化する若者に実弾を発射し、武力鎮圧の一歩手前まできている状況です。とはいえ香港から地理的に遠い欧米メディアは英国を除き、そこまで関心が高いとはいえません。

 抗議デモの被害は、日本企業にも及び、出店している外食チェーンの店舗が破壊されるなどしている一方、欧米の金融機関が拠点を置く地区でも騒乱が起き、観光だけでなく、香港経済を支える金融や中国への進出を準備する外国企業にとっても、ダメージは深刻さを増しています。

 今や中国中央政府を支持する店(青)と香港民主化を支持する店(黄色)を地図上で色分けするアプリまで登場し、買い物客や食事客は、アプリやSNSを通じて店を選ぶ状況です。デモ隊は中央政府を支持する店を襲撃し、日系店舗も営業休止に追い込まれたりしています。青は警察官の制服の色、黄色は2014年の民主化要求の雨傘運動で黄色い傘が使われたからだそうです。

 私はこのブログで、今年に入ってからの抗議デモは、香港が東西冷戦の置き土産であること、中国の経済発展とともに香港の利用価値が薄れ、一国二制度のメリットがなくなり、早く香港を中国に取り込みたい雰囲気を若者を中心とした市民が肌で実感し危機感を募らせているということを書きました。

 世界への覇権を追求する習近平政権は中国中央政府の権限を強化し、汚職摘発で党幹部を震え上がらせることで求心力を高め、反対するものは黙らせる政策をとってきました。共産党一党独裁の社会主義体制を前面に出し、言論弾圧、ウイグル自治区での宗教弾圧を続け、逃亡犯条例改正は香港で活動する民主活動家の身柄を中国政府に手渡すのが目的といわれていました。

 アメリカのトランプ政権は、中国の覇権主義がアメリカの国益を著しく脅かしているという観点から中国企業のアメリカでの活動を制限し、高等教育機関に入り込んだ思想拡大も行う孔子学園を排除し、アメリカの技術を盗む中国に対して高い関税をかけながら厳しい対中政策を実施してきました。

 しかし、このところ次期大統領選挙を意識するトランプ大統領は、社会主義勢力との戦いで中心的役割を担ってきたボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官を解任した後は、株価の動きばかりを気にする損得のディールで動くビジネスマン的姿勢が目立ち、米中貿易戦争での強硬姿勢もトーンダウンしています。

 香港問題介入は、アメリカにとって中国との関係を考慮した場合、国益に繋がらないと判断すれば、どんな人権弾圧の事態に陥ったとしても静観の姿勢を崩さない可能性もあります。たとえ言論の自由や信教の自由、民主主義が中国中央政府によって大きく侵されたとしても国連で懸念を表明するに留まる可能性もあります。

 事態は第2の天安門事件が起きる前夜の様相を呈している一方で、中国への経済依存を高める先進国は当惑しながらも、中国との対立だけは避けたいということで、1989年当時とは世界の情勢は大きく変わり、社会主義に対する警戒感も薄れている状況です。

 冷戦終結以降、価値観の対立は害あって益なしという考えが強まり、経済優先の流れになってしまい、今や価値観の相違は問題の本質ではないというのが外交の基本になっています。しかし、何でも価値観を横においてディールだけしていればうまくいくとは到底考えられません。

 その意味で香港という存在は、世界にとって重大な問題提起になっているといえそうです。経済中心に考えれば、たとえ中国が武力鎮圧に動いても中国の国内問題として静観するだけということになるでしょう。

 そうなれば今度は朝鮮半島でも経済が疲弊してきた韓国に対して北朝鮮が中国のバックアップを背景に統一のプログラムを稼働させた場合、世界は同民族の問題として静観する恐れもあるということになります。それは日本が東アジアで完全に孤立することを意味します。

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