Das Wesen der Zunfte

 ドイツが世界に誇る職業訓練制度、アウスビルドゥング・プログラムは、多くの国が参考にしてきた制度です。ところが、この制度を支えてきた細分化された技術の習得によって一生を過ごせた時代が終わりを向かえる中、激変するテクノロジーとチャンスをつかみたい若者の増加で、このプログラムに入る人口が激減し、どのような訓練や再訓練をすべきか窮地に追い込まれています。

 たとえばフォークリフトを操れるスキルは、一生使えるスキルだったのが、今では巨大倉庫は無人のフォークリフトがコンピュータ制御で効率的に動き回るようになりました。ドイツは欧州で最も生産現場に産業用ロボットを導入した国で、人件費を抑えることに成功したことで、年間輸出額で他の欧州諸国を寄せつけない存在です。

 つまり、ドイツは製造業の近代化の激変に対応した職業訓練を行うという意味でもアメリカのトランプ政権も注目するプログラムとして注目されました。高額授業料を強いる高等教育を受けなくとも、中学卒業後、企業が提供する職業訓練プログラムに参加すれば、少額の給料を受け取りながら専門技術を習得でき、一生が保障されるというものです。

 このアウスビルドゥング・プログラムを支える伝統的ギルドは、封建制が長く続いたドイツでビスマルクが制度化した職業別の社会保険制度にも活かされ、なんと21世紀にまで残っています。中世の時代、徒弟制度による厳格な身分制度が存在した時代にギルドは生まれ、製品の品質・規格・価格などがギルドで厳しく管理統制されたことで、ドイツは高品質のものづくりを可能にしました。

 日本でも自動車メーカーは高校などを持ち、職業訓練を行い、優れた専門技術を持つ人材を確保してきました。大学に行かなくても、一定の収入と一生の保障が得られるということで、今も継続しています。私自身もそんな背景を持つ自動車メーカーの製造ラインで働く人たちを対象にグローバルビジネス研修を約10年間続けた経験があります。彼らも海外で技術指導をしているからです。

 しかし、今、ドイツは、このアウスビルドゥング・プログラムを受けるドイツ人の数が減少を続けています。代わりに2015年になだれ込んできた移民、難民たちがこの制度を受けていますが、全体からすれば補える数ではありません。減少の理由には2つの理由が考えられます。

 一つは高学歴化です。中学を卒業し、専門技術を学び、一生をそれで過ごすというのは安定という意味では良かったのですが、自分の可能性を試す機会は限られます。大学までいけば、もっと選択肢が増え自分のやりたいことがやれる可能性があると考える若者が急激に増えているのです。

 もう一つは、人工知脳(AI)やロボット工学への依存度が高まるにつれ、職業訓練で習得するスキルが、役に立たなくなる現象が起きていることです。AIは当然、生産性の飛躍的伸びをもたらすために多くの企業はそちらに走り、職業訓練を受けた人材は縮小化する労働市場で立ち往生する現象が起きていることです。

 これは世界的な問題でもあり、従来のビジネスモデルが役に立たなくなる中で、これまではなんとか変化に対応するためのアウスビルドゥング・プログラムは努力してきたのが、そのスキル自体が不必要になるケースも出ている厳しい現実があります。そのため、細分化された個別の技術習得で安定した生活を確保するという考えそのものが疑問視されているわけです。

 私が欧州に来た30年前、驚いたことは職業別階級制度が厳然としてあったことです。英国でも11歳で労働者階級に進むか、ミドルクラス以上に進むかが仕分けされ、現在の若いドイツ人は、10歳ぐらいの時に大学進学コースか、職業訓練に進むかを選び、職業訓練に進んだ者は16歳で仕事と訓練を開始しています。

 日本のように小学校では遊んでばかりいたけど、一念発起して勉強し、大学を出て弁護士になるなど考えもつかない階級の固定化が行われてきました。人の能力を10歳前後で見極め、仕分けするのは合理的かもしれませんが、その人間の可能性という意味では厳しいものがあります。

 今のヨーロッパの多くの若者たちはアメリカを見て育ち、誰でもチャンスと可能性を試せる選択の自由のある社会を望んでいます。となると16歳で人生が決まり、なおかつ、その習得した技術が一生を保障できないということになれば、当然、アウスビルドゥング・プログラムは魅力を欠く制度になるわけです。

 その危機が今訪れているというところが、ドイツが依存してきた重厚長大産業が大きな利益を生んできたからなのでしょう。企業が求める人材と教育機関が送り出す人材のスキル・ギャップが世界中で問題になる中、ドイツの職業訓練制度は、即戦力で就職率は高く愛社精神を養うことに貢献してきた反面、彼らは今、40代中頃になると失業率が上がる現象が起きています。

 その意味では、伝統的な職業訓練制度の中身で、社会の需要に対応した内容変更を加えるだけでなく、40代の再訓練の場をいかに適切に提供するかということについても、官民で取り組む必要性があるということだと思います。

ブログ内関連記事
共に技術大国として世界経済を牽引してきた日独だが、似て非なるものが少なくない
優等生ドイツの経済減速はヨーロッパ経済にどの程度影響を与えるのか
中国人にはいわれたくない「開かれていない国」ドイツ ではその実態は?
ものづくり大国ドイツはコンセンサス重視