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 日本の台風を含む世界中の異常気象を地球温暖化と結びつける空気は世界中に漂っています。2015年12月にパリで開催された国連気候変動枠組み条約・第21回締約国会議(COP21)での採択にアメリカは他の187カ国とともに参加したわけですが、異常気象を肌で感じる、このタイミングで、どうしてアメリカは離脱を決めたのでしょうか。

 これまで環境先進国として世界を牽引してきた欧州連合(EU)も、京都議定書でCO2削減で一定の役割を担った日本も、トランプ米大統領を経済優先で自己中心の大悪人のように報じています。今回の離脱で今後、アメリカは世界で唯一、同協定に参加しない国となる一方、協定に不満を持つ国の離脱の連鎖を生む可能性も指摘されています。

 トランプ氏が離脱宣告をしたのは2017年ですから、2年以上経っても方針は変わらなかったことを意味します。表向きの理由は、ポンペオ国務長官が今年10月に離脱の正式通告計画を発表したときに述べた、アメリカに対する「不公平な経済的負担」です。具体的には離脱のプロセスは1年後の大統領選の翌日に当たる2020年11月4日に正式な離脱となっています。

 アンチトランプの報道で知られる英BBCは、アメリカの離脱は「現実的なダメージ」と指摘しています。パリ協定は地球の気温上昇を産業革命前と比較して2度未満に抑え、1.5度未満に抑えるための取り組みを推進することを目標に掲げたものです。「アメリカの離脱により、欧州連合(EU)は合意内容を実現するために相当の努力を要することになった」と指摘しています。

 また、BBCは、シンクタンクの国際・欧州問題研究所は昨年12月に発表した報告書を引用し、トランプ大統領による離脱決定はパリ協定に「非常に現実的なダメージ」を与え、「他国が追随する倫理的・政治的な理由」を作り出したという指摘を紹介しています。

 署名した国ごとに批准が必要なパリ協定の署名国の中には、批准していないロシアやトルコが存在し、今後、アメリカに追随する可能性があるというわけです。無論、来年の次期米大統領選で民主党候補が勝利すれば、離脱通告を取り下げる可能性はあるため、当然ながら民主党にとっては重要な選挙の争点に使うことが考えられます。

 そもそもリベラルで知られるオバマ前大統領の政策の否定の上に成り立っているトランプ政権、特にエネルギー超大国を公約に掲げ、環境対策で石油や天然ガスなどのアメリカのエネルギー業界に圧力をかけたオバマ政権に対して、トランプ氏は業界用語の立場を鮮明にしています。

 今のところ、表に出てきているのは「パリ協定は国益にならない」という認識ですが、本当に単純な経済的理由かといえば、それだけではありません。たとえば、アメリカの対中強硬政策の背後には、民主主義を脅かす中国の社会主義覇権戦略があることを見抜き、今では民主党も含め、中国の覇権主義を阻止する方向にアメリカは動いています。

 そもそも地球温暖化は、工業や農業による排出ガスが原因とされ、排出ガスによる気温上昇を制限するのがパリ協定の最大の目的です。ところが科学者や専門家の中には、この認識そのものに疑問が持たれており、様々な意見があるのも事実です。

 そこには、この30年間、環境問題への取り組みに非常に積極的に参加してきた政治勢力や経済利権勢力の存在があります。なぜなら、環境対策推進派の多くがリベラルな思想を持った人々だからです。それを象徴したのがパリ協定でした。

 主導した議長国フランスは当時オランド左派政権で、議長はファビウス元仏首相で左派を代表する政治家です。アメリカの代表団は民主党を代表するゴア元副大統領、ケリー米国務長官(当時)などで、リベラル派の政治家が大終結して決まったのがパリ協定でした。

 当然、その状況にを苦々しく見ていた保守派や財界が当時存在したのも確かです。パリ協定は、権力と大企業を敵視するリベラル派の勝利だったとも映ったはずです。実際、アメリカに巨額の負担を強いる協定だったことは確かで、同時に綺麗事をいってもエネルギーが必要な途上国にとっては納得しがたい内容が含まれるために、合意形成は常に難航してきました。

 ベルリンの壁とソ連邦の崩壊で挫折した共産主義者たちが、イメージの悪い共産主義の左派革命の夢を環境派の衣で隠しながら、活動してきたともされています。そのため、冷静な科学的議論や経済発展との関係を議論するより、政治性を常に帯びてきたのが気候変動への取り組みです。

 日本は東西冷戦も蚊帳の外で、イデオロギーには敏感ではありませんが、世界から宗教やイデオロギーが消えたわけではありません。日本の専門家は特に冷戦後の世界は経済原理だけで動いているように説明していますが、そうではない側面もあるということです。

 中国覇権主義を暴いたトランプ政権がまさにそれを物語っています。未成年の若者に刺激を与えた気候変動と闘うスウェーデンの少女、グレタさんについても、背後に政治利権や経済利権が存在することが指摘され、反対しにくい純粋な少女を利用するリベラル勢力への批判の声も聞かれます。日本からは見えにくいテーマの一つです。

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