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 欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と仏グループPSA(旧プジョー・シトロエン・グループ)が10月31日、対等合併することで合意したニュースが世界を駆けめぐりました。100年に一度の大改革を迫られる世界の自動車業界の再編の動きが加速しています。

 今回の合併が実現すれば、FCA・PSA両社の合計世界販売台数(2018年)は870万台超と、世界1位の独フォルクスワーゲン(VW)、2位の日産自動車・仏ルノー・三菱自動車連合、3位トヨタ自動車に次ぐ世界4位の自動車グループが誕生することになります。

 合併に向けた協議の詳しい経緯は発表されていませんが、両社は今後数週間以内に協議を取りまとめ、「拘束力のある覚書」を締結する方針ということです。今年6月、FCAはルノーに提案していた経営統合案でルノーが決定を保留したのを受け、提案を撤回した経緯があります。それから5カ月足らずで今度はPSAとの合意を取り付けた形です。

 FCAのルノーとの経営統合協議は、筆頭株主のフランス政府が影響を行使したことで、FCAは政府の影響を嫌い、交渉から撤退した形でした。フランス政府は日産に相談しませんでしたが、形の上では日産は議決権を持たないルノーの子会社にしか過ぎなかったのがその理由です。

 しかし、FCAにしてみれば、電気自動車(EV)化と自動運転化、ネットワーク接続(コネクテッドカー)という自動車業界に突きつけられた大変革時代を乗り切るための莫大な資金と技術の調達という課題において、合併できる企業探しは継続しており、政府の紐付きでないPSAとの交渉で合併が実現する運びになったわけです。

 合併後の新会社の最高経営責任者(CEO)にはPSAのタバレスCEO、会長にはFCAのエルカン会長が就任し、取締役はPSAが6人、FCAが5人を選任し、両社の株主は新会社株の50%をそれぞれ保有する台頭合併ということです。合併により年間37億ユーロ(約4500億円)の相乗効果を見込んでいるといい、「合併は全ての株主に大きな利益をもたらす」とタバレス会長は強調しています。

 無論、この合併には未知数の部分も少なくありませんが、米旧クライスラーとの合併で実績のある旧フィアットとしては、6月のルノーとの提携を主導したFCAのバルカン会長が今回も合併を牽引したものと思われます。旧フィアットはイタリア国内では電車車両まで手がけるトリノを拠点とする公共性の高い国の基幹産業を担ってきた経緯がある一方、民間企業として力を保ってきた企業です。

 プジョー、シトロエン、フィアット、クライスラーともに個人事業家が立ち上げ、同族経営を続けた過去を持ち、国営企業化されたこともない同じ血筋を持つメーカーです。FCAに限っていえば、今回、新グループの会長就任が予定されるバルカン氏は、フィアットの創業一族アニエッリ家の血筋を引く人間です。

 世界の自動車産業は、関連企業を合わせると国の全労働人口に絞める雇用者数が非常に大きいため、政府との関係が深くなるわけですが、フランスのルノーはもともと国営企業であり、今も政府が15%の株を所有する筆頭株主です。日産の利益がルノーを上回る今、間接的に日産はフランス政府へ貢献している形(ルノーは否定している)です。

 仮に今回のFCAとPSAの合併がうまくいけば、日産も政府紐付きで経営統合をめざすルノーに対して、根本的に身の振り方を考える事態になる可能性があります。西洋では最も中央集権的意思決定で知られるフランスの組織文化は、誰が主導権を握るかに異常なほどのこだわりがあります。国際機関に対してIMFなどの国際機関トップにフランス人を送り込むことへの常に執念を燃やしています。

 特に政治の世界は、その体質が強く、1990年代には、スウェーデンのボルボが、フランス政府の紐付きを嫌い、ルノーとの経営統合話を断った経緯もあります。日産が1999年に資本提携(本当は日産の子会社化)に合意した時、フランスの中央集権的文化を十分に理解していたとは思えません。

 日産は、トヨタやホンダと違い、通産省の指導のもとで成長した国営企業的体質を持つ会社だったために、ルノーと体質が似ているというのが、当時の日本のメディアの報道にありましたが、私はフランスが主導権に以上にこだわる国という部分の認識が抜け落ちていたと見ていました。

 結果、ルノーで民営化を牽引したゴーン氏が送られ、フランス政府と影響は最小化されていましたが、徐々に発言権を強めたフランス政府は、日産を利用してルノー及びフランスの雇用の回復を考えるようになり、ゴーン氏はルノーの会長になることと引き換えに日産との経営統合を進める密約(あるいはゴーン氏の忖度)が交わされ、フランス政府は主導権を発動したと思われます。

 特に「決めるのは私だ」が口癖のマクロン仏大統領は、ルノーへの影響を強めており、今回のFCAとPSAの対等合併のような関係は今でも脳裏にないはずです。その意味でも日産はルノーとの離婚も含め、まずはフランス政府の影響を最小化するためのルノー内の株主構成の変更を迫るべきでしょう。現在、PSAの業績は順調で欧州での車の評価も高いため、今回の合併は前向きに見る専門家も少なくありません。

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