4kxgVC9L7O1sCEtCi9vlh6tK622QsRhK

 どうやら民主主義の聖地といわれる英国のブレグジットは、またも延期の方向にあり、先行き不透明感の長期化が欧州経済を濃い霧の中に包み込んでいます。一方、ロシアのプーチン大統領やトルコのエルドアン大統領、中国の習近平国家主席、果ては北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長まで、強大な権限を持つリーダーがいる国が外交舞台で存在感を強めています。

 何でも議会に図らなければ決められない英国の誰も予想できないブレグジット、中央集権的なフランスで、皇帝とあだ名されるマクロン大統領が、議会を無視し大統領権限で次々に改革を推し進めた結果、1年間もマクロン政権打倒の黄色いベスト運動が続く始末。成熟しているはずの先進民主国家の存在感は弱まる一方です。

 最も民主主義が進んでいるといわれるアメリカのオバマ政権で、シリア内戦で化学兵器が使用されたら地上軍を派遣すると約束したオバマ氏は、実際、シリア軍が化学兵器を使用した際、プーチン大統領が化学兵器を処理すると申し出に乗ってしまいました。結果、ロシアの存在感は圧倒的に増し、IS掃討作戦でも大きな影響力を発揮しました。

 そして今回は、アメリカ軍の撤退を期にトルコに接するシリア北東部の国境沿いを支配するクルド勢力をトルコが一掃する作戦で、トルコのエルドアン大統領とプーチン氏は手を組み、クルド軍の撤退に一役買いました。これを受け、国際的非難を浴びているトルコへの経済制裁を宣言したトランプ米政権は制裁を取り下げました。

 具体的には、トルコが提案しているシリア北東部を緩衝地帯に設定し、トルコで預かっている難民360万人を移し、本国帰還を進めるエルドアン提案をロシアが支援することになりました。これで、またもやロシアの中東へのプレゼンスが高まった形で、プーチン氏はパワーブローカーなどと呼ばれています。

 ロシアから見れば、人道主義で欧米大国が動いていることを横目に見ながら、とにかく、欧米諸国が口出しできない紛争の具体的解決に動くことで、パワーを引き寄せているといえます。欧州が懸念するクルド人に大量犠牲者が出るトルコの軍事介入を終わらせれば、ロシアに表立って反対できないというわけです。

 この熟練した外交の地政学的スキルの高さは、米ウォールストリートジャーナル(WSJ)も認めているくらいです。アメリカの核合意からの撤退と経済制裁に苦しむイランとも、ロシアはカスピ海を挟んでエネルギー利権などを念頭に良好な関係を築こうとしています。

 アメリカのトランプ政権は、国益重視、国際的約束違反は許さないという姿勢を前面に押し出している一方で、非常に複雑な中東地域では失策が多く、ロシアにしてやられている格好です。今のプーチン氏から見える世界には、絶対的同盟関係を結ぶ国は少ない一方で、昨日の敵が今日の味方という状況の中で戦略的、便宜的に関係国と信頼関係を構築する外交を展開していると思われます。

 中国の習近平国家主席しかり、北朝鮮の金正恩氏しかり、サウジアラビアのサルマン皇太子しかりで、独裁的指導者と便宜的であることを相手に感じさせないアプローチで、信頼関係を結んでいます。欧米諸国のような民主主義、自由と平等、法の支配、人権などに縛られることなくパワーブローカーのスキルを存分に発揮しているのがプーチン氏だといえそうです。

 つまり、今の世界は、これまでベストではないにしろ、現時点で最もベターな統治システムといわれた自由と民主主義が、圧倒的権限を持つリーダーたちの前に存亡の危機に晒されている状況です。民主主義は意思決定プロセスが非常に複雑で煩雑なために、即決即断が要求される外交では民主主義の国でも大統領の専権事項とされてきましたが、うまく機能はしていません。

 選挙で外交の話をしても票に繋がらないのが常です。その意味ではプーチン氏も内政では反政府勢力の批判に晒されていますが、権限の集中と元KGBのスキルで反プーチン勢力は押さえ込んでいます。習近平氏も同じような手法で権力を掌握しています。

 その意味では、トランプ大統領はプーチン氏のような強権は持っておらず、何か政策を実施しようとしても民主党に握られた議会の反対にあえば、頓挫してしまいます。果たして危機に晒される民主主義は、強権指導者の前に何をすべきなのか、実はそれは民主主義では国民の意識を高めことくらいしかなく、その意味でメディアと教育は非常に重要な責任を担っているということです。

ブログ内関連記事
クルド勢力一掃の軍事侵攻で遠のくトルコのEU加盟 大量難民の再流入を懸念する欧州
注目度増すカスピ海沿岸諸国 ロシアとイランで領海を分け合う時代の終焉と米対抗外交の思惑
トルコのエルドアン大統領の国連演説 360万人の難民を受け入れている説得力と発信力
トランプ大統領の中露封じ込め政策に誰が参加するのか