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 某日系化学メーカーB社は、中国・上海で厳しい訴訟に直面したことがあります。理由は賄賂の発覚でちょうど習近平政権が党幹部の汚職一掃キャンペーンに本腰を入れ始めた時期でした。B社は、どうしても取りたい案件があり、その交渉過程で上海では知られた人物のアドバイスに従い、交渉に影響力を持つ地元の党幹部に賄賂を渡したのが発覚してしまったというのです。

 発覚した理由は、賄賂を受け取った幹部が別の汚職事件で当局に逮捕され、自分が賄賂を受け取った企業について次々に自供したからでした。B社は、なんどか地元の共産党幹部から間接的に賄賂を要求されたことがあり、当局の取り締まり強化で、他の誰に賄賂を渡したかも追求されたそうです。

 つまり、習近平政権が求心力を強めるために党幹部の実質的な粛清を行う汚職撲滅キャンペーンが開始された時点で、震え上がったのは賄賂を受け取った本人だけでなく、渡した側も責任を問われる可能性が浮上したということです。

 特に中国の有名な諺に「上有政策下有対策」(上に政策あれば下に対策あり)というのがあります。基本的には中央政府などが、いかに政策を施行しようとも民衆(又は地方政府)はその法規制を免れる方法を考え出して政策を骨抜きにするという意味では、現在では「決定事項について人々が抜け道を考え出す」という意味に使われています。

 ところが「下の対策」を考え出すには時間が掛かるし、そんな諺を百も承知の共産党政府が本腰を入れれば逃げられません。中国共産党中央委員会規律調査中央委員会中国当局は2018年の1年間だけで、62万1千人を党規律違反や汚職などの罪で起訴し、打ち51人は政府高官だったたとしています。

 しかし、中国には別の諺もあります。それは「囲師必闕、窮寇勿迫」(囲師(いし)には必ず闕(か)き、窮寇(きゅうこう)には迫ることなかれ)です。意味は敵を深追いするなということで、窮地に追い込まれた敵が死に物狂いで反撃してくるのを避けるために敵にも逃げ道を作っておけということです。

 絶対権力を握る習近平国家主席が指揮する共産党中央政府は法の施行のさじ加減も自由です。敵を窮地に追い込み、クーデータでも起こされるリスクも考慮しながら硬軟取り混ぜて法を施行しているということです。そんな分かりにくい国なので中国人コンサルや地元有力者のアドバイスも時には外れることもあるということです。

 某大手IT企業でのグローバルリスクマネジメント研修で、受講者から「賄賂を要求されたら、どうすべきか」という質問を受けたことがあります。答えは支払いに違法性がある場合は支払うべきではないということです。お金は出所と支払いの合法性を確認するのが先です。

 たとえが交渉にブローカーを使ったとします。ブローカーは謝礼を受け取るのが商売です。そのブローカーが合法的に動いているのであれば謝礼を払うのは交渉コストの一部として問題ありません。しかし、交渉当事者が裏金を要求してきた場合は合法性は担保できません。

 そんな綺麗事を言っていたら商売はできないという人もいるかもしれませんが、要は自分のスタンスを常に明確にしておく必要があるということです。つまり、裏金を要求するような相手とはビジネスはしないというスタンスを持てば、リスクの高い相手は遠のくからです。

 逆に賄賂の受け渡しを拒否したことで信用を獲得した例もあります。約束事がすぐにでも破られるのがグローバルビジネスです。自分のスタンスは明確にしておく必要があるということです。ビジネスそのものはリスクを伴いますが、違法行為はリスクの種類が違います。

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