Leadership-Role
 
 この25年、20代の業務経験が浅い若い社員から、会社を率いる経験豊富な60代の管理職まで、それも日本人だけでなく、欧米人、アジア人、中南米人、アフリカ人まで、さまざまな階層、さまざまな人種の人々にグローバル研修をさせてもらいました。

 このこと自体が、私の貴重な経験であり、異文化理解を深め、人はどのような動機で働き、どのような時に満足を感じ、どのような時にストレスを感じるのかを知ることにも繋がっています。私は好奇心旺盛な方なので、その経験はエキサイティングなことでもあり、何年経っても学ぶことが多いと感じています。

 その経験の中で、何人かの非常に優れたリーダーに出会ったことができました。無論、リーダーになる生まれながらの資質に恵まれた人もいました。中にはカリスマ性を備えた受講者もいました。しかし、誰もが納得する実績と、多くの人の尊敬を集める人には、いくつかの共通点があります。

 その一つが謙虚さです。人の心を掴み、誰もがその人についていきたくなるような人物は、当り前と言えるかもしれませんが、パワハラを行うような権威主義者や強権で人を動かす人、部下を馬鹿にするような人はいません。

 先進国から途上国まで4カ国以上の国に駐在し、様々な経験をしてきた商社マンが、ある会社を任され、自分がトップとして東南アジアの某国に支社を立ち上げるのに、関係者30名とともに私の研修を受けた人がいました。そんな海外経験豊富な人に何を話したらいいのか正直戸惑いました。

 ところが受講中、真ん中に陣取って、学ぶ意欲一杯という様子で謙虚に集中して受講していました。ケーススタディやロールプレイにも積極的に加わり、間違うことも厭わないし、新たな知識を習得し、スキルを磨こうという姿勢は周りの受講者は刺激を与え、素晴らしい研修になりました。

 質問も誰よりも多くしながら、印象的だったのは、研修後、「今日は、こういうことを学びました。長い海外経験はしていますが、事前にこのことを知っていれば、もっと効果的なマネジメントができたのにと思いました。早速実践したいと思います」といういったことです。

 この感想に私は恐縮しました。私の研修が良かったというよりは、彼の旺盛な学習意欲、60歳を過ぎても新しいものを吸収し、成長しようという意欲に満ち、謙虚に学ぼうという姿勢に感銘を受けました。

 東洋人はリーダーになると、部下から担がれる場合が多く、何でも知っていると思われたがり、教えることはあっても教えられることはないという人は少なくありません。逆に西洋人は実力を疑われることを恐れ、受講後に「この点だけは参考になった」などといい、結構、保身が強いケースが多いといえます。

 ところが優れたリーダーは人に耳を傾け、部下からのフィードバックを真剣に聞く人が多く、「聞かなくても分かっている」というような態度はとりません。メキシコの製造工場で、メキシコ人に慕われる日本人リーダーについて、メキシコ人たちは「とにかく、彼はよく自分たちの話を真剣に聞いてくれる」という話を聞きました。

 ロシアで高い実績を出した自動車部品メーカーの日本人工場長は、現場にへばりつき、自ら率先して身を持って模範を示し、従業員の不平不満にもいちいち丁寧に答えていました。自分ができないこと、分らないことを素直認め、けっして知ったかぶりはしない人だと李氏あ人から慕われていました。

 もう一つは、自分の感情を素直に表現することです。嬉しいときは嬉しいといい、怒る時も自制しながらも正直に表現し、本音と建前を使い分けるのではなく、オープンに自分を晒して相手に分かりやすくしていることです。無論、前提はポジティブであり続けることです。

 感情表現がないと共感の輪が拡がらず、連帯意識は生まれません。優れたリーダーは文化の壁を超えた共感をもたらす人です。それも上から目線でない謙虚さがあります。無論、即決即断する決断力や説得力を持つコミュニケーション力は必要ですが、自分も成長しようという意欲を持つ謙虚は大事です。私自身、優れたリーダーとの出会いを通して、多くを学んでいます。

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