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 日本の某大手化学メーカーの幹部は、最近、需要が見込まれる化粧品業界への投資をどの程度拡大させるかという会議をニーズの高いフランスで行ったそうです。会議の参加メンバーは、日本人、フランス人、英国人、アメリカ人だったそうですが、彼らのやりとりに日本から参加したメンバーは辟易したそうです。

 理由はなかなか本題に入ろうとせず、市場分析や集めたデータ分析で見解が分かれ、なかなか事業コンセプトや目標設定に至らないため事業の具体化の議論ができなかったと、参加した日本人の一人が私に語ってくれました。

 日本人からすれば、化粧品市場にポテンシャルがあるのは明らかで、いかに競争力のある製品を市場に投入するかで、その生産体制や営業方法を話し合う会議だと理解していたため、なぜ、いつまで経っても本題に入らないのかと思ったそうです。

 会議中、我慢の限界に達した日本人幹部の一人が「コンセプトに関する話はこれまでにして、そろそろ事業の具体化について話しましょう」というと、欧米人幹部たちは怪訝そうな顔をしたそうです。フランス人からは「コンセプトがしっかりしなければ事業はうまくいかない」と反発の声があがったといいます。

 英国人幹部は「だいたい、事業コンセプトを決めるのに哲学まで持ち出すから時間が掛かるんだ」とフランス人を批判し、そこから互いに考え方の議論が始まり、日本人たちはうんざりしたそうです。

 欧米的アプローチは、市場やデータ分析を慎重に行い、目標に合わせて取捨選択しながら、そこに一定の法則や構造を見つけ出し、それを根拠に綿密な事業コンセプト(フレームワーク)を構築するというもので、「一定の法則や構造を見つけ出す作業」に時間を掛けるのが普通です。

 逆に日本は市場分析はしてもニーズがわかれば、あとは事業コンセプトの大枠を決め、いかに競争力のある製品を作り、どう売るかという具体策に議論が移ります。目標設定するため、一定の法則や構造を見つけ出し、しっかりしたフレームワークを決めるより、とりあえずスタートさせ、進行過程で調整し、状況変化に柔軟に対応する方が合理的と考える傾向があります。

 つまり、欧米のアプローチは演繹的で、事業の設計図をしっかり書くことに力点が置かれ、日本は帰納的で、大枠さえ決めれば生産プロセスをその都度調整し、市場変化にも柔軟に対応しながら、ものづくりを進めるのが基本です。そのため、階層別の仕事範囲も違ってきます。

 欧米では事業のヴィジョンや方向性、コンセプト、目標を設定する階層と、事業を具体化する階層は分かれています。つまり、事業コンセプトを決める階層が最も上に位置し、その下の階層が具体化の責任を担うため、日本人が出席した会議はコンセプトづくりに集中していたわけです。

 日本の幹部の守備範囲は欧米より広く、ものづくりでは理系のエンジニア出身者が圧倒的に多いことも影響しています。彼らはヴィジョンやコンセプトづくりより具体化する方が気になります。そもそものアプローチが欧米とは違うわけで、当然、上司、部下の仕事内容も日本では大きく重なっています。

 欧米の演繹的アプローチは、株主最優先の経営文化、資金調達する金融機関に対する説得力が必要というビジネス環境とも深く関係しています。では、グローバルビジネスの現場ではどうあるべきなのでしょうか。私は、どちらが有効なのかではなく、シナジー効果を発揮する新しい意思決定スタイルを生み出す必要があると考えています。

 そもそも事業そのものを考える部長以上の階層には、コンセプトを考え抜くスキルが必要です。欧米のビジネススクールでは、成功した事業コンセプトについて学ぶことが多いわけですが、これを課長や部長になる時に学ぶのが日本で、欧米では20代後半で学んでいます。

 理由は現実に今必要なくても頭の柔らかいうちに学んでおかなければ、50歳になって学ぶのでは頭が柔軟性を失っているので難しいということです。無論、経験と学びの繰り返しは重要です。それにリーダーとしての資質がなければ、リーダーになるべきでもありません。

 ただ、資質と知識やスキルは別物です。資質はあっても学習しない人間はリーダーとして正しい判断はできません。今、欧米のビジネススクールから見れば、日本のリーダーは、リーダーという職種のプロ意識が薄いことが問題です。日本人以外の誰もが理解できる言葉でしゃべれるリーダーもいません。

 だから、ヴィジョンや事業コンセプトを決める会議での議論に加われない2流リーダーが多いのは残念なことです。コンセプトを議論することは、参加する全ての人間の事業への理解とコミットメントを高める効果があります。小手先の技術に目を奪われていてはリーダーとはいえません。無論、事業の具体化では日本人は素晴らしい能力を発揮できます。

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