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 アメリカのトランプ大統領は23日、国連総会開催中のニューヨークの国連本部で「宗教の自由の保障」を呼び掛ける会合を開催しました。目的は世界各国で信仰者が迫害を受けている現実を深刻に受け止め、各国政府が宗教を制限したり、禁止したりする行為を終わらせるよう呼び掛けるというものでした。

 基調演説の中で、世界の人口の約80%の宗教者が信仰の自由を脅かされたり、制限や禁止されたりする国に暮らしているとの認識を示したトランプ氏は「信教の自由保護は、私の政権にとって最も優先順位の高いものの一つだ」と述べ、アメリカは「全ての国の信仰者とともある」との立場を鮮明にしました。

 同席したペンス米副大統領は、バリバリのキリスト教徒でアメリカの伝統的価値に軸足を置く共和党保守派です。同じ信仰者でもあるトランプ氏とともに、正副大統領が自由の価値観の本質にある信教の自由の保障を国連本部で強調したのは過去にない行為です。今回、トランプ氏は信教の自由保護のために2,500万ドル(約27億円)を拠出することを表明しました。

 懐疑的で反トランプのリベラルメディアは、超保守派で安全保障担当のボルトン大統領補佐官解任後、次期大統領選に向け、岩盤支持母体といわれるキリスト教福音派に動揺を与えないためのリップサービスで今回の会合を行ったとの見方を示しています。

 しかし、国連総会に合わせたトランプ氏の想定外の会合は、米大統領選を睨んだ政治的動きという意味では終わらない深い問題を提起しています。トランプ政権は「ナショナリズムの復活」「自由貿易を妨げる保護主義者」と批判され、同時に価値観を横に置き、ディール(取り引き)で何でも問題解決しようとしていると指摘されています。

 東西冷戦後の世界的風潮としては、共産主義に勝利したと自負する欧米先進国は、イデオロギーではなく、「人権」「権利」という尺度を拠り所にする傾向が強まりました。リベラル派のクリントン元米国務長官時代は、彼女が人権弁護士出身ということもあり、何かと人権をかざす態度に中国やロシアは辟易していました。

 ロシアで開催された冬季ソチ五輪で、ロシアが同性愛者の権利を主張する活動を禁じる法律を施行したことに抗議し、欧米の首脳が開会式をボイコットしたのは、LGBTの人たちの権利を冒すことへの抗議でした。しかし、LGBTを禁止し、精神障害とする宗教から見れば、LGBTの権利拡大運動は微妙な問題です。

 つまり、今の人権や権利を強調すること流れの主流は、何らかの宗教的規範に縛られない「何でもあり」のリベラリズムということです。たとえば、政教分離を徹底して進めた西ヨーロッパでは、宗教(その多くはキリスト教)は社会の隅に追いやられ、世俗化が進み、モラルの低下が社会問題になっています。

 私が教鞭をとったフランスのエリート養成のグラン・ゼコールの学生たちには、聖書の知識はほとんどありませんでした。キリスト教文明と東洋文明を比較する講義で苦労したのは、彼らがキリスト教自体に恐ろしいほど無知だったことです。

 ポンペオ国務長官は今月6日、今回の宗教の自由保護の会合を念頭に、アメリカ政府が中国政府によるイスラム教徒の少数派ウイグル族への弾圧を非難するよう各国に呼び掛ける方針を表明していました。トランプ政権は米中貿易戦争だけでなく、ウイグル問題で中国への圧力を強めています。

 クリントン氏ならウイグル族の人権をテーマにするでしょうが、トランプ氏は宗教弾圧をテーマにしています。その違いは何かといえば、人権よりも「自由」の保護にあるといえます。その自由は何でもありの自由ではなく、宗教に支えられた自由です。

 欧米で発展してきた自由の概念は、もともと神が人間に公平に与えた価値という概念を発展させたもので人権思想のもとにもなっています。宗教と自由は対立すると考える日本人は少なくないと思いますが、信仰者にとっては宗教こそ、雑念から人間の心を解き放ち、真の自由を与えるものと考えています。

 たとえばキリスト教では「罪の縄目」に縛られている人間が、イエスの十字架を受け入れることで赦しを得て、罪の縄目から自由になるという教えがあります。仏教でも雑念から解放されるために座禅を組み、悟りを開くことで心は平安と自由をえるというわけです。

 ユダヤ教やイスラム教が信じる旧約聖書の教えは、人間と自然を創造した神に従わなければは自由はないという考えです。その観点からすれば、神や宗教のない自由はありえないということになり、何でもありのリベラルな人権活動家とは相いれないものです。

 今年3月、米ワシントンのホワイトハウス内で福音派の聖職者らによる集会が行われ、ホワイトハウスを聖地と定めると宣言しました。トランプ氏のように宗教的価値に基づいた自由の保障を国是と考える保守派には、徹底した政教分離などありえません。

 逆に自分が大統領に選ばれれば就任式で、聖書の上に手をおいて宣誓を行わないと公言していたリベラル派を代表するクリントン氏の自由や人権は、宗教を根拠にはしていません。実はリベラルな論調の多い欧米メディアが、いくら反トランプキャンペーンを展開しても、宗教迫害を懸念する人々はびくともしないわけです。

 国連では何度か宗教問題を取り上げる気運がありましたが、頓挫した経緯があります。理由は宗教対立が政争や戦争の原因になってきた歴史的問題もあるからです。たとえば、宗教弾圧といいますが、宗教が権力者と結びつき、異端者を弾圧した歴史もあります。

 ローマカトリックの総本山のヴァチカンは、中世以来、軍まで所有し、権力を振るい、十字軍遠征でシリア辺りでイスラム教徒を大虐殺し、スペインのグラナダでも国土回復運動(レコンキスタ)の名の元にキリスト教徒がイスラム教徒を虐殺し、イベリア半島から追い出した過去があります。

 しかし、今は逆に宗派の壁を超え、過去の反省のもとに勢力争いをやめ、世界を破壊する「何でもありのリベラルズム」の拡大阻止に立ち上がるべきだいうのが、トランプ政権の立場です。イスラム教徒を弾圧する中国への批判は、結果的には中国が採用する宗教を阿片とする共産主義体制の変更を迫る本質的価値観の違いを持ち出したものともいえます。

 トランプ氏は、宗教の自由をテーマとした国連会合の最初の主催者で国家元首となったと米メディアは報じています。世界中で宗教迫害に苦しむ信仰者たちには、力強いメッセージだったといえます。

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