APP-060619-Trump-D-Day-Speech
 
 アメリカのトランプ大統領が今月10日、国家安全保障担当のジョン・ボルトン大統領補佐官を突如解任したことは、過去に何人ものホワイトハウス・スタッフを解任したこと以上に次期大統領選向け、大きな意味を持つとの見方が広まっています。

 反トランプ派の米リベラル・メディアは、たとえば、ワシントン・ポスト紙は、トランプ氏とボルトン氏の鋭い意見対立を淡々と伝え、政権の混乱と迷走ぶりを冷たく指摘することに終始しました。理由は対立していた両者は、リベラル派にとっては身の毛がよだつほど嫌悪感を持つ人物たちだからです。

 次期米大統領選で民主党候補者のトップに立つバイデン前米副大統領は「トランプ氏をオバマ氏と比較すること自体ナンセンスだ」とトランプ氏への軽蔑を露にしています。反トランプの英BBCも、トランプ氏からの解任が先だったのか、ボルトン氏からの辞任表明だ先だったのかというドタバタ劇に報道は終始しました。

 それに比べると保守系メディアの米ウォールストリートジャーナル(WSJ)のボルトン氏解任に関する指摘は、はるかに深いものがありました。11日付の社説「ボルトン氏辞任でトランプ氏が失うもの」では、「真の問題は、トランプ氏が全ての安全保障問題を交渉で解決できると考えていること、そして他国の全ての首脳が自分のように取引をしたがっていると考えていることにある」という踏み込んだ指摘をしたことです。

 本来、安全保障分野は「取引が全て」のビジネスの世界とは根本的に異なるものです。北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、イランのロハニ大統領、中国の習近平国家主席とも、経済だけでなく安全保障分野でも「ディール」で問題解決できるとするトランプ流手法が、今後、ますます強まるとWSJは見ています。

 もう一つは、同じ11日付けのWSJの「ボルトン氏の退場、安保政策で進むトランプ化」の記事の中で、同紙のチーフコメンテーターのジェラルド・F・サイブ氏が「他国への介入を容認し、軍事行動もいとわない」共和党タカ派を代表するボルトン氏の解任は「安全保障をめぐる共和党の理念ーー少なくともトランプ氏が思い描く党の理念ーーの大きな転換点を浮き彫りにするもの」という指摘しました。

 共和党の伝統的安全保障政策では、アメリカの安全を脅かすイラクやアフガニスタンの過激派の一掃のための米軍の長期駐留も、北朝鮮の核放棄のために軍事行動も厭わないというものです。しかし、トランプ氏はイラク戦争には批判的だったし、タリバンとの交渉にも前向きで、金正恩氏とは友好を深めることで北朝鮮の核廃棄を実現できると信じている節があります。
 ボルトン氏が進めたイラン空爆も土壇場でトランプ氏は軍用機を引き返させました。トランプ氏は内心、合意しかねることもボルトン氏に従った反面、結果は出なかったと思っており、ボルトン氏に見切りをつけて、自分流のディール外交で結果を出す方向に舵を切ったといえます。

 同時に、サイブ氏は共和党内で起きている安全保障政策をめぐる対立は「単に散発的な問題で意見がぶつかったというより、むしろ党の理念を巡る重大な議論が与党内で始まったことを表している」と指摘し、トランプ氏がこの議論に長期的な決着をつけたのか、それとも共和党の頂点に君臨する間、一時的に自分の方にバランスを傾けただけなのかはまだ分からない」と述べています。

 共和党タカ派は、東西冷戦時代からの考えを変えていません。しかし、トランプ氏は21世紀の外交・安全保障についての見方やアメリカのアプローチを根本的な変えようとしています。これを一時的なものと見るのか、それともトランプ氏が21世紀の未来を予見して行動しているのか、もしかしたら人知を超えたところで過去にない変化が起きているのか、確かな説明は見当たらない状況です。

ブログ内関連記事
同盟国にまで不快感与えるトランプ米政権だが、超大国アメリカなしの世界秩序は考えられない
世界のリーダーの宿命を負った国アメリカが直面するイラン、中国問題、どちらがより重要なのか
アメリカ・イラン間に高まる緊張は外交、石油利権、軍事行動の世界の現実を見せつけている
専門家が嫌悪する慣行破りのトラップ流外交だが、なぜ世界は破滅の道に陥っていないのか