Global britain 2019

 ブレグジットで大揺れの英国議会が世界から注目されています。離脱強硬派のジョンソン英首相と議会の間で繰り広げられるジョンソン劇場は、欧州連合(EU)以外は関係のない話とはいえない21世紀の国のあり方を世界に問いかけているともいえるでしょう。

 何回か、このブログに書きましたが、英国内外の専門家が政治家や関係者の話を何度分析しても、残留派の主張は明確であっても、離脱派のヴィジィンは明確ではありません。共通しているのは、EUから主権を取り戻し、独自の通商政策を駆使すれば、グローバル・ブリテンに返り咲けるという点だけでしょう。

 かつて7つの海を支配した大英帝国。日本の20世紀の大戦も対米英戦争でした。高齢の英国人たちは、EUを抜け出し英連邦を基盤とすれば再び発展できるという少々時代後れの大英帝国の亡霊を追い続けています。

 そこには冷戦を戦う中で本当の意味で自由民主主義の価値観を共有できるのは、EUではなく、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドだとする保守派の認識もあります。これらの国は英国が生んだ国という意味では当然の認識ともいえます。

 つまり、アングロサクソンが築いてきた自由民主主義、自由市場主義は、あくまで米英を中心としたアングロサクソンによって牽引されるべきという考えが根強くあることです。私は実際、グローバルビジネスの場で、何度もアングロサクソンの投資家グループと遭遇しており、英国が今後も金融の中心であり続けることは、彼らにとって最重要といわざるを得ません。

 EUの縛りから開放されれば、大胆な減税や規制緩和を行い、国際競争力を高めながら、特に北米経済圏、環太平洋経済圏などに独自にアクセスし、通商協定を結べるというのが離脱強硬派の主張です。ところが45年もEUに属していたために英国内の制度も法律も独自性はなく、何をどうすれば英国の国力を回復できるかは離脱派からも具体案が出ていません。

 そこで登場した経済モデルの一つがシンガポール型でした。小国ながら地の利を生かし、大胆な規制緩和によるフリートレードゾーンを構築し、東南アジアにあって経済的成功を納めたモデルです。通称「テムズ川のシンガポール」構想といわれます。日本でも知られる掃除機で有名な英ダイソンが本部をシンガポールに移したこともインパクトを与えています。

 しかし、 EUより労働基準がはるかに緩い英国で、さらに規制緩和を行えば、労働者軽視との批判は免れないでしょう。環境問題への配慮などから製品基準に高いハードルを設けているEUに対して、規制基準を引き下げれば、EUへの輸出が滞るだけでなく、ビジネスにおける見識も疑われそうです。

 小国シンガポールの経済発展に欠かせない自由貿易港の存在は、中国・東南アジアのサプライチェーンのハブ的役割を担っているからこそ大きな利益に繋がっているわけです。英国を取り巻く環境にはそんなものはありません。それに政治体制は独裁的で議会制民主主義の英国とは合いません。

 病的ともいわれたEUの製品規制基準は、自動車の排ガス規制にしろ、化学製品の厳しい基準にしろ、時としてビジネスのロジックからすれば不合理な面もありました。しかし、地球温暖化による異常気象が深刻な被害を世界各地にもたらす今、EUの選択は支持される方向にあります。

 それに規制の極端な緩和で英国がタックスへブン化することへのEUの警戒感は相当なものです。租税回避、蓄財の拠点だったスイスの金融機関が、アメリカとEUの圧力で情報開示を進める中、表に出したくない収入をユーロスターで現金を持って英国の銀行に預けにいくフランス人やドイツ人を何人も知っています。

 時代の流れとして、カリブ海の小島ではあるまいし、ブレグジットによって英国がタックスヘブン化すれば、国際的批判の的になり、英国の評価は極端に下がることが予想されます。
 
 メイ前政権は、離脱協議と同時に通商交渉を行おうとしましたが、EU側は離脱合意案の策定、政治宣言を先に行い、離脱日から始まる移行期間に通商協議を行うことを主張し、受け入れました。離脱強硬派は、その順番にも不満を持っており、それなら合意案の縛りのない合意なき離脱後に、EUと通商協議した方が、英国ペースで交渉を進められると考えているようです。

 英国の近年の貿易収支を見れば、対EUは輸出全体の50%近くを占めながら、赤字が続き、逆に対米貿易では全輸出の15%程度ですが、黒字が続いています。つまり、EUに依存してもEUは英国にとっては儲からない国だということです。この現実は離脱派を勢いづかせている一つの要因です。

 トランプ米大統領は、英国がEUを離脱すれば「英国とすばらしいディールができるだろう」とジョンソン氏を後押ししています。しかし、民主党が多数派を占める米議会は、英政府が北アイルランドとアイルランドにハードボーダーを築き、北アイルランドの和平合意を崩壊させる行為は絶対に支持しない言明しています。

 英国の状況は非常に多くの矛盾を抱えています。たとえば自由と民主主義、法治国家の価値観を堅持するといいながら、議会の反発を回避するため、離脱期限ギリギリまで議会を停会にするジョンソン氏の暴挙は議会軽視も甚だしいといえます。それに自由も民主主義もない独裁国家、中国への急接近も矛盾しています。

 それに自由と民主主義、人権重視の価値観を生み出したキリスト教は、アメリカと違い超下火です。特に英国教会は信徒数が国民の15%にまで落ち込み、世俗化が進み、英国があてにするアングリカン・コミュニオンが広がるオーストラリアやニュージーランド、カナダより弱体化しています。

 いずれにせよ、われわれは総選挙が行われるか、合意なき離脱をするか、延期するか未だに先の見えないジョンソン劇場に付き合わされることは確実です。同時にグローバリゼーションにブレーキが踏まれ、中国の覇権主義が表面化した今、国家のあり方そのものが全ての国で問われていることも無視できません。

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