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 海外拠点のナショナルスタッフが「何かといえば、”本社の意向”というのには疲れる。もっと権限委譲してほしい」と不満を口にするナショナルスタッフは少なくありません。特に昨今、管理職クラスのナショナルスタッフが増える中、派遣された日本人スタッフは本社との板挟み状態に陥るケースも多いのが実情です。

 海外進出した企業は、「輸出中心型」「現地生産化」「国際化/多国籍化」「グローバル化」の段階を踏むといわれ、マネジメントの観点では「分権化」「分散化」「二元化」「ワン・カンパニー」の4段階があるといわれます。日本の多くの企業はエスノセントリック(自民族中心的)なので、「国際化」の一歩手前当たりの企業が多く「ワン・カンパニー」にはほど遠いのが現状です。

 経営陣は頭で分かっていても、世界中に広がる支社や現地法人を含め、一つの組織として運営する段階に入っている企業はほとんどありません。もともと「ウチ」「ソト」を明確に区別する村社会の日本では、「外人」という言葉もあるように世界の人材を一括管理するなど想像もできない話です。

 日本企業では新卒採用組の正社員と転職組、派遣社員を差別的に扱っている現状を考えると、たとえば英国支社で雇ったエグゼクティブを日本本社で部長にする企業は、まだまだ非常に少ないのが現状です。国際業務が増えても言語や文化の壁があり、ワン・カンパニーには壁があるといえます。

 権限委譲で分権化した段階にとどまっていることで問題が発生するケースもあります。それは海外での企業買収やM&Aでの失敗です。本社が海外支社に決定権を丸投げしたために、とんでもない不良企業を巨額で買収して抱え込み、会社全体の存続も危うくするケースもあります。

 結局、今のグローバル化した企業では、「分権化」「分散化」「二元化」レベルにとどまっていては、前に進めない現実があるということでしょう。国際部門などといって、ドメスティック業務の外に置く組織形態では適切なビジネス運営ができない時代にあるといえます。これはグローバル化と国益が同じ土俵で語られる現在の重要なテーマです。

 経済は政治に先行するのが常です。政治家は外交実績は票に繋がらないといいます。しかし、実は政治の世界も内政と外交の境がなくなっている。貿易関税や輸出入規制の変化など国内企業を直撃する可能性があります。日韓のように2国間の関係が悪化すれば、さまざまな影響が出てきます。

 通常、外交政策は議会の審議なしに政府の権限で決定しています。国民は輸出入や軍事的な専門知識もないわけですから、通常は関心もありません。諸外国との複雑な関係を一般国民は関知しないのが普通です。しかし、今は違います。

 日韓関係も日中関係も、あるいは日米関係、北朝鮮問題も全て外交問題です。英国のブレグジットも外交問題です。にもかかわらず、ブレグジットの是非を欧州連合(EU)にとどまるメリットとデメリットの専門知識を持たない国民に判断を委ねました。

 それで思い出すのはEU憲法の批准です。フランスは国民投票にかけ、フランス人の妻の元に分厚い解説書が送られてきました。法律の専門知識がなければ、到底判断できない内容で一般国民は読む気もしなかったといわれます。

 最近は、国民がたいした専門知識も持たない外交問題の報道が増え、ああだこうだと論じています。政治家が間違ったメッセージを発しても国民は振り回されるだけです。一番いい例は韓国の文在寅大統領が日本政府が半導体材料の輸出優遇規制を解くと発表したことを誤解し、韓国企業が倒れる危機だというメッセージを国民ンに流したために、一挙に反日機運が高まりました。

 企業同様、ウチとソトを分けにくい状況は政治にも訪れているということです。ということは政治家も専門知識を持つ関係者、メディアが慎重にメッセージを流す必要があるということです。同じことがビジネスリーダーにもいえます。

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