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 数年前まで仕事場として借りていたパリ14区のアパートのオーナー、マダム・フシェは、仏南西部の高級リゾート地として知られるビアリッツに住んでいました。彼女は夫を早くに亡くし、パリから自分の別荘があるビアリッツに25年前に引越し、パリに所有するアパートの一つを貸していました。

 アパートのあった14区は絵描きが多く住んでいたこともあり、借りていたアパートは日本でいえば8階(フランスでは7階)でしたが、吹き抜けのサロンに高さ6メートルのガラス張りの天井、室内の階段で中2階に登っていく構造でした。なかなか気に入っていて、古くて狭いエレベーターも風情がありました。

 別荘が老後の住処になるパターンは、フランスでは珍しくありません。現役時代は喧騒な都会を週末だけ逃れて過ごしていた別荘が、退職後は終の住処になるというわけです。フランス人にとっては理想のパターンです。マダム・フシェはそんなことも考え、30年以上前に病院や施設も充実しているビアリッツに別荘を持ち、今はそこで暮らし、最近、聞けば介護付きの高齢者施設に入ったそうです。

 そんなビアリッツで8月24日から3日間、先進7カ国(G7)首脳会議が開催されます。ビアリッツはフランス人のみならず、ヨーロッパでビアリッツを知らない人はいないほど、フランス屈指のリゾート
地です。

 「西海岸の宝石」と讃えられ、大西洋に面し、イベリア半島の付け根に位置し、スペイン国境にまたがるバスク地方の文化が色濃い保養地で、ヨーロッパの王侯貴族の保養地として知られています。今回のサミット会場にも使われる「オテル・デュ・パレ」は、19世紀に皇帝ナポレオン3世が王妃ウージェニーのために建てた豪奢な離宮で、現在もイギリス王室が利用しています。

 一流ホテルにカジノ、高級レストランからタラソテラピーまで、美しい大西洋に面したビーチを囲み、高級リゾート地としての全ての条件を満たしています。加えてヨーロッパのサーフィン発祥の地として知られ、いくつものサーファー・スクールがあり、ヨーロッパで2番目に歴史の古いゴルフコースもあります。そのため世界中の若者やビジネスマンにも人気があります。

 ニースやカンヌ、サントロペなど地中海に面した高級リゾート地同様、ドーヴィルと並び大西洋に面したビアリッツも、ヨーロッパの王侯貴族たちによって開発され、今に至っています。私のフランス人の友人の一人はビアリッツの魅力にとりつかれ、数年前に引っ越していきました。

 そんなビアリッツで開催されるサミットですが、期間中は近くの空港や鉄道駅、ビーチまで閉鎖され、ホテルは一般客の宿泊はできず、サミット関係者で埋まっているそうです。この5年間、テロが頻発するフランスだけに、テロに対する厳戒態勢を敷く一方、仏内務省は、無政府主義組織や過激な環境保護団体、黄色いベスト運動などが乗り込んでくることも警戒しています。

 ビアリッツのブナック市長は、町の知名度を世界的に上げるチャンスと意気込んでいますが、サミットに眉をひそめるレストラン店主や住民は少なくないようです。静かに老後を過ごす住民の多くは、これを機会にマナーを守らない観光客が大量に押し寄せることを心配しているそうです。

 次第に存在価値が薄れつつあるG7ですが、世界経済の舵取りに欠かせない高い見識やモラルを持つ国は多いとはいえません。その意味で不透明感の漂う世界に明確な方向性を示してほしいものです。

 経済問題に加え、気候変動やアフリカの開発、公正な貿易システム、国際租税、個人情報保護、デジタル課税と議題は多岐に渡りますが、政治家のリーダーシップが求められるところです。


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