Ai_Weiwei_2008
 
 先週ドイツのウェルト紙(電子版)に掲載された中国の著名芸術家で人権活動家でもある艾未未(アイ・ウェイウェイ)氏のインタビューは、衝撃的でした。2015年から中国政府の弾圧を逃れ、ドイツに滞在する同氏が「ドイツは開かれた国ではなかったので他の国に移動する」という意向を示したからです。

 同氏によれば、東洋人として日常生活で差別を受けてきたと主張し、具体的にはタクシーの乗車拒否に度々遭い、タクシー会社に人種差別だと抗議したら、単なる文化の違いで人種差別はしていないと説明された例などを挙げています。私は彼の風貌も乗車拒否の原因ではと見ていますが。

 艾氏は「これでは中国政府がたびたび欧米諸国から批判される人権侵害について、文化の違いと反論しているのと同じだ」と不快感を表しています。同氏は、ドイツが「開かれた議論の余地や、異なる声への尊重の精神がない」国だとして「自己中心的なこの国は、私を必要としていない」という結論に達したといいます。

 自由を何よりも必要とする芸術家にとって、ドイツは期待したほど自由で開かれた国ではなかったという話です。しかし、最も言論や表現の自由が制限されている共産党一党独裁の国から逃げてきた人間の弁だったことに、ドイツ人の中には不快感を表す声も聞かれます。

 この話を聞いて、すぐに脳裏をかすめたのは、友人である東洋美術研究者で国立ベルリン東洋美術館のヴィリバルト・ファイト元館長が私にいっていた話です。彼は中国人の妻のために真剣にドイツを離れることを考えていたのですが、理由は妻が感じる人種差別が限界に達しているからだといっていました。

 実は、2015年に起きたシリアやイラクで発生した難民・移民のヨーロッパ大量流入で、ドイツは欧州連合(EU)加盟国で最も多い約100万人を受け入れました。しかし、蓋を開けてみれば、アラブ系イスラム教徒への差別などで、ドイツに馴染めず、シリアに引き返す現象が起きました。

 これは、難民を積極的に受け入れたスウェーデンなどでも起きている現象で、ドイツ、スウェーデン、デンマークでは、移民によるレイプ事件が多発し、社会問題化しています。女性がブルカなどで顔も体も覆うイスラムの国から、積極的に肌を見せる女性の多いヨーロッパに来て「女たちは男を誘っているとしか見えない」というシリア人は少なくありませんでした。

 実はドイツを初め、中央、東ヨーロッパの人々のメンタリティは、決して異文化に開かれているとはいえません。それは彼らの歴史からくるもので、国境を挟んだ侵略によって、支配するかされるかの歴史を繰り返してきた彼らの外来者への不信感は相当なものです。シリア難民を国境で阻止したハンガリーのリアクションも理解できます。

 ドイツも完全な村社会で、地域性が非常に強く、会社内でも知らない人には挨拶しないことなどで知られています。私も教鞭を執っていたフランスの大学の教務室で、毎週会うドイツ人教授が挨拶しないことに、当初は悩まされました。知らないものには本能的に壁を築き防御するのがドイツ人です。

 私自身はドイツでタクシーの乗車拒否に遭ったことはありませんが、予約していたホテルで予約はないといわれたことはあります。私のフランス人の妻は4年間、ドイツにいたことがあり、ドイツ語も堪能ですが、ドイツ人の閉鎖性に恐怖さえ感じたといっています。

 一方、ヨーロッパには文明的優位性がたたき込まれているので、アジア人は文明的に低いという固定観念があるのも事実です。30年に渡る私のヨーロッパ滞在経験から、その偏見は大きく変わりましたが、ドイツ人の優越心や独善性はEU一の経済大国という自負もあり、非常に強いものがあります。

 つまり、優等生特有の上から目線が外国人にはきつく感じられるということです。本人たちに悪意はなく、言わば本能的に保身に走るのも、たくさんの国境と接し、闘争を繰り返してきた彼らの歴史から来るもので悪意からではないのですが、決して多文化に開かれたとはいえません。

 たとえば隣の家の芝が伸びすぎていたり、窓辺の花が枯れていると露骨に注意しにいくのがドイツ人です。隣人に一切干渉しないフランスとはま逆です。日本人以上に決まり大好きのドイツ人は、その決まりを全ての人に守らせようと圧力を掛けてきます。実はその裏には理解できないものに遭遇した時に異常なまでのストレスと恐怖を感じるドイツ人の国民性もあります。

 そういえば、ノーベル平和賞受賞者の故劉暁波氏の妻がドイツに出国して住み始めています。彼女も数年経つとカルチャーショックに耐えられなくなる日がくるのでしょうか。長い歴史を持つヨーロッパに非ヨーロッパ人が住むのは容易ではなく、アメリカなどの歴史のない国よりは、開かれていないと感じるのは当然ともいえることです。

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