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 冷戦時代に大国の多くが軍事、外交に多額の国家予算とエネルギーを費やしていた頃、国際的軍事行動を放棄し、国際社会では封じ込め状態にあった日本は、経済復興から経済発展に集中し、その勤勉さと優れた技術で、いわば漁夫の利を得る形で短期間に飛躍的発展を遂げました。

 しかし、1990年代以降の急速なグローバル化の中で、経済成長の原則からも低成長、マイナス成長時代を向かえ、島国日本は外国との風通しの悪さも手伝い、日本独自の文化が生み出した経営システムが行き詰まりも指摘されました。さらに中国、インドなどの新興国の台頭もビジネス環境に大きな影響を与えています。

 専門家の間では、アメリカのオバマ政権時代にアメリカのプレゼンスが低下する中、国連など多国間主義によって生れた国際機関の存在が強まり、世界は大国主導ではなく、より多国間の協議によって問題解決していく方向に向かっているように受け止められていました。

 しかし、グローバル化が招いた大国の経済の空洞化により、職を失い貧困に苦しむ層を中心、不満が爆発し、アメリカのトランプ政権に象徴されるような先進国の国益重視の方向に先進国は舵を切っています。オバマ時代に多国間主義を歓迎していた国際政治の専門家や経済アナリストたちは、トランプ氏を軽蔑、批判していていますが、その批判は妥当とも思えません。

 実際、アメリカがオバマ政権時代までに徐々に多国間主義に傾いた形跡はなく、1996年に署名した包括的核実験禁止条約の批准でアメリカは1999年に否決し、ブッシュ大統領時代には京都議定書や生物兵器禁止条約の遵守を求める条約原案を拒絶しています。

 トランプ政権が気候変動抑制のパリ協定を脱退しことや、多国間主義の領域ではありませんが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)や米ロ間の中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄し、イラン核合意からも撤退したトランプ氏をメディアは自国第一主義とネガティブに印象づけていますが、戦後できた国連などの国際機関に対して、アメリカは伝統的に距離を置いており、新しいもではありません。

 日本は敗戦国で軍事力行使を放棄している立場で、一方で多国間主義を信じないアメリカとの日米同盟から多大な恩恵を受けながらも、国連中心の多国間主義を支持して世界に好印象を与えることで国際的信用度を高め、戦後を生き抜いてきたといえます。

 しかし、多国間主義を利用して覇権を強める中国、ソ連時代の栄光を取り戻したいロシア、核武装する北朝鮮やイランの脅威に対して、国連を舞台とした多国間主義では解決できないことは証明済です。無論、武力行使は絶対に避けるべき選択肢ですが、何でも協議すれば解決するというのも幻想です。

 このような時代のビジネスの判断には何が必要なのでしょうか。一国の政治も国際政治も経済の比重が圧倒的に増している時代です。政治的に対立していても経済関係が緊密なら、対立が戦争にまでは発展しないブレーキとした働く効果も無視できません。

 そんな中、企業としてはアイデンティティ強化が必須です。世界の人が容易に理解できるヴィジョンを構築するという意味では、日本は弱いといえるでしょう。なぜなら社是とかヴィジョンには日本人にした通じない精神論が多く、大企業ほど社員に関心はありません。ですがその強化は必須です。

 透明性を高めておくことも重要です。隠蔽が得意な日本ですが、見える化も必須です。さらには労働環境で人権が守られ、ライフワークバランスが重視されていることやコンプライアンス重視も求められます。同時に今後、最も検討すべき課題は企業と国家の関係です。

 企業はグローバル化するだけでなく、他国の企業とのM&Aなどで、国家アイデンティティが変更される場合も出ています。これは企業アイデンティティにとっては大きなテーマです。もともと文化的共有度の高い欧米企業とは異なる日本企業には厳しい選択もあるでしょう。

 1980年代、ジャパンバッシングの最中、アメリカを何度も取材した私は、アメリカへの進出の歴史の長い欧州企業に対してはバッシングがないことを目の当たりにしました。環大西洋同盟で世界を切り盛りしてきた背景もありますが、文化の共有度の影響の大きさは無視できません。世界に企業の魅力や価値をアピールする努力がなければ、優秀な人材も集められません。

 同時にビジネスだけでなく、国際政治情勢の変化に敏感であり、深読みできることも重要です。明らかに判断ミスという海外進出のケースに何度も立ち合ってきました。さらにはグローバルリスクマネジメントの強化もますます重要度を増しています。

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