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“HOMAGE TO MONET 5,” 2009, ALEX KATZ, OIL ON CANVAS, 182,9 X 365,8 CM. (c ALEX KATZ, 2019. PHOTO: PAUL TAKEUCHI, ADAGP, PARIS, 2019)

 アメリカの現代アートが世界を席巻した1970年代、時代の寵児となったのはアンディ・ウォーホルやロイ・リヒテンシュタインなどポップアートの画家たちでした。しかし、世界で最も大衆文化が定着するアメリカ社会が生み出したポップアートは世界に強烈なインパクトを与えた一方、世界的広がりは一時的なものでした。

 無論、ポップアート自体は、カテゴライズするのが好きな美術評論家や研究者が勝手に分類したもので、画家本人は、たとえば、モネが印象派の画家といわれることを快く思っていたなどということはなかったでしょう。歴史に残る巨匠は、たとえ一時期、ある美術運動に共感し、影響を受けても、最終的には、その画家独自の世界を見いだしているものです。

 生粋のニューヨーカーでポップアートの申し子のようにいわれるアレックス・カッツも、当人は自分独自の世界を見いだし、黙々と作品を制作し続ける画家で、この20年間、世界に共感の輪が広がっている希有な優れたアメリカ人画家です。

 パリのオランジュリー美術館では「アレックス・カッツ 睡蓮 モネへのオマージュシリーズより 2009-2010年」展(9月2日まで)が開催中です。自然に関心を寄せるようになったカッツが、ニューヨークの北方メイン州の自然に囲まれたアトリエで睡蓮の咲く沼を描いた連作で、モネへのオマージュとして描かれたものです。

 カッツは1927年生まれですから、80歳を超えてから制作されたことになりますが、モネへのオマージュといいながら、たとえば日本画を彷彿とさせる構図、マチスがたどり着いた絶妙な形と色彩が織りなす世界が脳裏に走るのは私だけでしょうか。

 モネが日本の浮世絵に多大な影響を受け、太鼓橋や睡蓮の浮かぶ池を庭に造ったのは有名な話ですが、そのモネを念頭に置くカッツの作品にも日本画的要素が見られるのは当然といえることです。円熟期に入ったカッツが巨匠の域に達していることを強く感じさせる作品群です。

 混迷する20世紀のアートはグローバル化が進み、最先端の現代アートの発信地はパリでもニューヨークでもなく、世界各地に分散しています。西洋美術という括りも過去のものになりつつあります。そんな中、カッツの存在感は増すばかりです。高齢にも関わらず、21世紀の美術シーンに一つの回答を与えているように思います。

 19世紀に日本美術に影響を受けた西洋絵画は、戦後、中心はアメリカ移り、その後、国籍を失った感があります。中国人作家のポップな作品が人気を集め、アフリカの強烈な原色で描かれた躍動感あふれる絵画も注目されています。

 そんな中、20世紀のあらゆる要素を凝縮し、21世紀に道を開いているのがカッツではないかと密かに思っています。アフリカでも彼は教祖化しているといわれるのも理解できます。

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