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 アメリカの世界に対するプレゼンスが大幅に弱まった内向き政治のオバマ政権時代、「アメリカは世界の警察官であることを放棄」とか「パックスアメリカーナの終焉」などといわれました。中国やインドが台頭する中、ヨーロッパでは異なった国々が共存する多極化均衡論の正当性が強調されました。

 そこにアメリカ第一主義を掲げて登場したトランプ政権は、特にアメリカが世界の安全保障において、従来の中心的役割を継続的に果たすことに疑問が投げかけ、北大西洋条約機構(NATO)においては、ロシアの直接的脅威に向き合うヨーロッパ諸国に、さらなる分担金の増額を要求しました。

 また、北朝鮮の脅威と直接向き合い韓国や日本に対しても、防衛に携わるアメリカの負担が多いことに不満を表明し、事実、韓国は分担金を増やしています。つまり、世界の安定こそ、アメリカの国益に繋がるという従来の考え方による巨額の防衛軍事負担を継続する姿勢は、リセットの時期を迎えたということです。

 その意味で、トランプ大統領がイランがホルムズ海峡を航行する石油タンカーの防衛は、実際に石油を運んでいる日本や中国が行うべきで、石油輸出国で中東の石油に依存していないアメリカが防衛の中心的役割を担う必要はないというのは、一見合理的な主張ともいえるものです。

 このことについて、保守系メディアの米ウォールストリートジャーナル(WSJ)が掲載したトランプ政権への警告は、絶大な軍事力、経済力を持つアメリカの世界における役割の今後を考える上で示唆に富んだものといえそうです。それに結果的に日本の石油輸送への防衛責任も問われています。

 「アメリカが世界の石油供給を守るべき理由」と題された7月9日付けのWSJの記事は、まるでトランプ氏に説教するような調子で、中東でのアメリカの役割を説いたものでした。WSJは、まず、40年以上に渡り、ペルシャ湾岸諸国から運ばれる石油輸送の防衛について、トランプ氏がアメリカがリーダーシップを取る意味はないという主張には一定の説得力があることを認めています。

 WSJは「アメリカがそれでもこの役割を受け入れるべき――実はそれを望むべき――理由には、実際的なものと地政学的なものがある」とし、「実際的な理由は、アメリカ経済は依然として石油供給の混乱に対して脆弱(ぜいじゃく)であるという事実に起因する」としてます。つまり、世界のどこであれ石油価格の不安定化は世界のビジネスに直接影響を与え、アメリカにも影響が及ぶということです。

 そのことを考えると、中東の石油の安定供給にとって重要な防衛は「アメリカ軍がそれを他の誰よりもうまくやれるという点」で、アメリカは継続的にリーダーシップを取るべきとWSJは主張しています。これはアメリカ保守派の伝統的考えでもあります。

 さらにジョージ・W・ブッシュ元大統領の時代に国務次官を務めたバーンズ氏の意見を引用し「われわれは中東において、中国やロシアによる主導権獲得を望むようなことはあってはならない」「彼らはアメリカやイスラエルにとって長い間の敵対者たち――イラン、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラ、シリア政府など――の勢力を支援している」という指摘を紹介しています。

 つまり、アメリカが国際社会での指導的地位を守ることに興味を失えば、結果的に対立国らに主導権を奪われ、アメリカは国益を害するという論理です。結論として「アメリカが国際的な石油供給を防衛すべきかどうかではなく、いかに防衛するかである」として、同盟関係にある石油輸送の当事国への責任の分担を要請する必要性を説いてます。

 これらの指摘は確実にホワイトハウスに影響を与えるものとものと思われます。すでに航行の自由の安全確保でアメリカ軍は有志連合結成で関係国との協議に入っていると報じられています。つまり、日本がアメリカ軍に対して「うちのタンカーがホルムズ海峡でイランの攻撃を受けたので、防衛宜しくお願いします」とはいえない時代が、すぐそこに来ているということです。

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