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 欧州中央銀行(ECB)の次期総裁に欧州連合(EU)首脳が選出したのは国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事(63)でした。女性初のECB総裁となるラガルド氏は、自らの野心で高い地位を得るためにもがいてきた人物というよりは、時代の波に乗って周囲から押し上げられた人物という印象です。

 ヨーロッパには、1980年代に活躍した故サッチャー英首相を皮切りに、国を率いる女性指導者としては、メルケル独首相、最近辞任したメイ英首相などが世界的にも知られています。今回の次期欧州指導体制では、最終決定ではないにしろ、欧州委員会の次期委員長にドイツのフォンデアライエン国防相が指名されています。

 実はラガルド氏の出身国であるフランスは、欧州内では政治やビジネス界の重要ポストに占める女性の割合がけっして高いとはいえない国です。政治の世界もサルコジ大統領就任時の2007年に閣僚のジェンダーバランス優先で、当時、アメリカの国際ロー・ファームであるベーカー&マッケンジーの幹部だったラガルド氏が財務相に起用され、G8最初の女性財相にもなりました。

 2006年に米経済誌『フォーブス』が世界最強の女性30に選出された1人となったラガルド氏は、当時、フランスで最も英語が流暢な政治家といわれました。シンクロナイズドスイミング(現アーティテュックスイミング)の選手だったラガルド氏は、アメリカ法曹界で頭角を現した女性でした。

 財務相だった彼女に、さらに風が吹き、国際機関トップに女性が就くべきという機運の中、IMF専務理事の座が与えられ、今度はIMFの実績を評価され、ECB総裁としては、中銀出身者でもない初の女性総裁に選ばれたわけです。

 欧州議会での指名承認でもフォンデアライエン氏のような懸念は示されておらず、ラガルド氏はドラギ現総裁の政策を踏襲すると見られ、好感が持たれています。

 メルケル独首相は「ラガルド氏が選ばれたのは、IMFで誰もが認める指導的役割を引き受けたためだ。その役割を果たすことができる人物ならECBを率いることもできると思う」と述べ、マクロン仏大統領は彼女のECB総裁としての資質と能力を評価し「市場の信頼もある」ことを強調しました。

 ECB総裁にラガルド氏が指名されたことで、同じ弁護士出身のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる米金融当局ととともに、エコノミスト出身ではない人物が世界経済をけん引することになります。

 ラガルド氏の強みは、IMFで鍛えた危機への対応で、経済的危機に陥った国の再生に取り組んできたことです。不透明感の高まる世界の中で、欧州の将来はけっして順風満帆とはいえず、ブレグジットを控え、ユーロの信頼と安定を含め、難題が山積しているのも事実です。

 トップへの女性起用には、2つの効用があるといわれています。一つは目標が定まれば、それに向かって突進する推進力です。メイ首相は本来、EU残留派でしたが、国民投票で離脱が決まり、首相を引き受けた当初は国民の意向だとしてハードエグジットで突き進み、総選挙で敗北するとソフトエグジットに転換し、再び妥協なく突き進んできました。

 結果的には辞任しましたが、何度も挫折しながらも周囲の予想以上に執念を燃やしたのは事実です。その執念は男性も舌を巻くものでした。女性は男性以上に猪突猛進する性格が強いともいわれますが、無論、それは諸刃の剣で方向を間違えば深刻なダメージを与えるリスクも抱えることになります。

 もう一つの効用は、男性が好むプライドをかけた勝ち負けよりも調和を好む性質があることです。意見調整では男性以上の手腕を持つともいわれています。猪突猛進型の頑固さと調和重視は矛盾するようですが、どちらも女性の強みといえ、そのバランスが保てれば、組織に大きく貢献できるともいえます。

 ダイバーシティの代名詞にもなっている女性登用は、今後も世界で推進されることでしょう。世界一の男性社会の日本も遅ればせながら、そういう時代に差し掛かっているといえそうです。

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