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 香港での大規模デモへの圧力を強める中国と1997年まで香港を統治してきた英国の間の論戦がエスカレートし、特に中国の劉暁明・駐英大使の過激発言で英国は改めて現実を思い知らされた形です。

 ことの発端は、1日にデモ隊が香港立法会(議会)の建物に突入した際の香港当局の暴力的鎮圧について、メイ英首相が「デモ参加者の圧倒的多数が平和的かつ合法的に行動していた」との見方を示し、1984年の「中英共同宣言に定められた香港の高度な自治と市民の権利および自由が尊重されることが重要だ」という認識を示したことでした。

 さらにハント英外相が「香港市民の事件を侵害すれば、中国政府は深刻な結果に直面するだろう」と警告しました。これに対して劉大使はテレビで放映された同日の中国大使館での記者会見で「英国は植民地時代の妄想に取りつかれている」と非難し「英国政府は間違った側につくことを選んだ上、不適切な発言で、香港の内政に干渉するだけでなく、法を破った暴徒らを支援した」と強く非難しました。

 劉暁明大使は、北朝鮮駐在大使も務めたベテラン外交官であるだけに、発言は中国中央政府の考えを代弁したものと思われ、改めて中国政府が英国政府の統治時代を過去の遺物として完全に葬り去りたい意向を持っていること見せつける結果となりました。

 劉暁明大使は、さらに「英国は香港当局が犯罪者に法の裁きを受けさせるのを妨げようとしており、それは香港の法の支配への完全な干渉だ」と非難しました。駐在する大使がテレビの前で、駐在する国の政府を露骨に非難するのは異例ともいえることです。英外務省は劉大使を呼び出し、発言に関する説明を求めましたが、対立は続いています。

 この論戦で登場した中国の主張は、過去に行った共同宣言への考え方の国際常識との違いを見せつけたものです。劉大使は「香港は中国の特別行政区であり、英国の植民地支配下にある地域ではないことをあらためて強調したい」と述べ、中国外務省は今週、中英共同宣言について「もはや実質的な重要性はない」との認識を示し、「中国に手を出すな」と警告しました。

 劉大使は、逆に「返還後に一国二制度を成功させてきた中国に敬意を払うべき」ともいいました。ハント外相はツイッターで「両国の良好な関係構築は、法的拘束力を持つ合意が土台となる」との認識を示しました。

 今回、中国は、特に香港の旧宗主国である英国が、香港の政治に口出しすることは認めないとの考えを明確にした型です。それよりも一国二制度を運営する中国政府を賞賛すべきとまでいったわけです。中国らしい対応だったといえます。

 論争の中心になっている1997年の返還を念頭に1984年に定められた中英共同宣言について、英国は国際条約であり、今も有効で守られるべきと主張しているのに対して、中国側は当時交わした過去の文章であって、今、香港を特別行政区として統治するのは中国で、効力はないと主張している点です。

 これは、どこかで聞いた話とよく似ています。徴用工や従軍慰安婦問題で過去の賠償が終了している問題を反故にする判決を最高裁が下した韓国の認識にも繋がるものです。つまり、法的拘束力を持つはずの国際条約の解釈が、まったく異なっているということです。

 これが世界を揺るがしている問題の核心の1つです。なぜそうなのかというば、中国や韓国などアジア地域には、法は支配者が支配のために定めるもので、権力者の都合によって解釈は変わり、死文化することもありうるということです。特に外国と結んだ条約や協定を遵守し続ける考えはないともいえます。これはビジネスにも繋がる話です。

 当然、香港の一国二制度をいつ変えるのかも中国政府の自由であり、事実、1997年の返還から50年間適応されるとした中英共同宣言について、2014年11月に駐英中国大使館が「今は無効」との見解を英国側に伝えています。実際、中国当局は英下院外交委員会議員団による宣言の履行状況の現地調査も「内政干渉」として拒否しています。

 香港の騒乱への中国政府の対応や、一連の論争は、英国及び欧州諸国に国際条約を守らない中国の正体を見せつけた形です。そのため、中国への幻想は、遅まきながら、ますます消えようとしています。

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