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 外交でもビジネスのグローバル交渉でも、いわゆるハーバート流交渉術では、相手の利益に注目することが重要とされています。たとえば、物を売ろうとする時に自製品の優れた点ばかりを宣伝することに忙しく、相手はいったいどんな利益を追求しているのかを軽視すれば、結果、Win Winの関係にならないというわけです。

 ところが、ハイコンテクストの超共感社会の日本では、たとえばテレビコマーシャルを見ればアメリカとは歴然とした違いがあります。アメリカでは何を売るにも1人か2人の人物(多くの場合、男女)が登場し、他の製品に対する優位性を一方的にガンガン、アピールするのに対して、日本のコマーシャルは控え目で共感を得ることが重視されています。

 日本では、もともと自己主張より空気を読み、波風立てずに順応することが重視される忖度文化なので、相手のことを考えずに一方的に主張する欧米や中国、韓国とは違います。たとえば、日本にとって今、最も困難な課題の一つに朝鮮半島問題があります。

 板門店の米朝首脳会談のように、トランプ大統領のアプローチは大胆で唐突ですが、外交関係は崩れていません。ところが日本は日朝首脳会談の目度は全く立っていません。韓国は日本が半導体製造の重要材料の輸出規制強化を決めたことで、旧徴用工への賠償を迫る韓国への報復だとして、日韓関係は悪化の一途を辿っています。

 このような状況になると日本は、一生懸命、北朝鮮や韓国の分析を行い状況把握に追われます。メディアも専門家も、一般人よりは理解しているとはいえ、確証がない想像による分析が多いのも実情です。特にベールに包まれた北朝鮮については正確な情報もなく、想像の域を出ない分析も多いのが実情です。

 相手を分析することで、次の態度を決めるというのは、一見正しいようですが、実は非常に日本的な部分もあります。ハーバート大学で生まれたという交渉術は、実は相手への理解より自己主張が先にある日本とは真逆なアメリカ文化から生まれたものです。

 たとえば、アメリカの対中外交の専門家の多くは、アメリカは旧ソ連には勝てたが、対中外交で成功した試しはないといっています。アメリカは自分の正当性を主張することは得意であっても、相手を深く理解することは苦手です。だからハーバー生まれの交渉術は新鮮でした。

 逆に、日本は自国内が忖度社会なので、正確かどうか別にして相手を読むのは当然と考えるわけです。それに自分のコンテクストの延長線上で十分相手を理解できるという状況もあります。ローコンテクストのアメリカでは、自分と相手が最初から同じ価値観の上に立っていないのが前提です。

 結果的に空気を読む、相手を理解することを本能的に行う日本人には、2つの課題があります。1つは相手を知ることは重要ですが、日本人の価値観、コンテクストの延長線上では相手の正確な理解できないことを知ることです。もう1つは、自己利益目標を明確にし、的確に主張することです。

 韓国問題で、韓国のことばかり分析するより、日本人としてどうなのかをはっきりさせるべきです。トランプ氏が北の金正恩労働党委員長と握手している時、実況するアメリカのメディアは「自分の親族をも殺害する独裁者と握手してどうするのか」と疑問を投げかけました。

 相手に合わせることばかり考える日本人は、自分がよって立つスタンスがはっきりせず、相手によって態度を変えることも良しとする面もあります。実はそれが逆にグローバル交渉ではマイナスに働くことが多いことを私は見てきました。

 つまり、自分が何を追求し、何を重視しているのかを、伝える技術以前に、自分の中でそれがはっきりしていないといけないという話です。そこには自分の感情も含まれ、相手の出方によっては不快感を示すことも重要です。ただ、感情を表出するには、それなりに相手へのロジカルな説明も必要です。

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