最近、世界一中流階級が多いといわれた日本でも格差拡大から新たな階級社会が生まれつつあるという指摘が聞かれます。私が初めてヨーロッパに足を踏み入れた1980年代後半、未だパリの地下鉄には1等、2等があり、1991年まで存在し、戦後、階級制を消滅した日本で育った私は正直衝撃を受けました。

 英国では教育制度そのものが、階級制を肯定し、初等教育終了時点から人の仕分けが始まり、たとえば、小学校では遊んでばかりいて成績が良くなかったが、中学の後半ぐらいからバリバリ勉強して一流大学に入り、一流企業で活躍しているという日本のパターンなど、ありえないわけです。

 それより、さらに驚くべきは、歴史的に階級を超えた結婚が稀なことで、同じようなIQレベル同士の結婚が大半なために、ますます階級は固定化された歴史を辿ってきたことです。英国では今でも弁護士や医者などアッパークラスに属する人の9割が親もアッパークラスなのが現状です。

 彼らは子供の時から労働者階級の年収の何倍もかかる学費の全寮制のパブリックスクールで学び、オックスフォードやケンブリッジに進学し、伝統的上流階級を形成してきており、たとえば、普通の公立学校からオックスフォードに入った人間は、一方で相当な努力家で優秀だといいながらも、出身階級の違いから差別を受けるのが常です。

 そんな英国も時代の変化の中で階級の中身は確実に変化しており、伝統的な階級を表すアッパークラス、ミドルクラス、ワーキングクラスは、超富裕層の外国人、その他の一般人、さらに蔑称として使われるチャヴに代表される道をぶらつく反社会的不良たちと社会構成が変化したといわれています。

UK class society

 新たな階層の区分けでは、全体の6%を占めるエリート層があり、社会的にステイタスが確立されている医者や弁護士、官僚などの伝統的エリート層は健在です。そこにアメリカ、インド、中国、中東などからの外国人のビジネス成功者の超富裕層が入り込んでいるといわれます。さらに英国には莫大な資産を先祖から受け継ぐ上流貴族が存在し、資産の運用、管理で、一生働く必要のない階級です。

 エリート層の下位のミドルクラスの約25%を占める確立された職業としては、警察官、電気技術者、作業療法士、助産師などがあり、多くは大卒者や専門学校で一定の教育を受けた人々です。そこに技術革新で必要となった技術系や技術サポートする人々が21%を占め、第4次産業革命で必要とされる高度ITエンジニアの中にはエリートクラスに入る人も増えています。

 ワーキングクラスには製造現場で働く伝統的労働者も健在ですが、そこにもポーランドなど旧中・東欧諸国の人が急増しました。無論、その日暮らしの反社会的な軽犯罪に手を染める若者もこのクラスです。

 そのワーキングクラスが全体の48%を占めていることが、私から見ればブレグジットを含め、選挙や国民投票で政治に大きな影響をもたらしており、民主主義を運営する上で支障になっていると思われます。過去には階級間の交流もなかったわけですが、今は情報があふれ、知らなくて済んだことも明るみに出て、富の極端な偏りは民主主義には脅威です。

 長い間、一つの階級に閉じ込められ、そこから出るリスクを考え、特にワーキングクラスにとっては向上心を持つことは避けられてきました。しかし、スマホなどの高額な人生を楽しむデバイスが巷にあふれる今日、ある程度の経済力がないと惨めになるため、階級社会は大きく揺れています。

 長い間、既得権益を持つエリート層は、彼ら以外の人が入ってくることを嫌ってきました。しかし産業構造が変わり、次々に新たなビジネスモデルが生まれる今日においては、階級社会も変わらざるを得ないのも事実です。

 特に今後、人工知能(AI)が多くの分野で人間の代わりを務めるようになり、クリエイティブな才能が重視されれば、階級の中身も大きく変わることが予想されます。歴史のないアメリカが歴史の古い英国を超えていったように この変化を私はポジティブのとらえるべきだと思っています。

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