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 フランスでは、先月末に行われた欧州議会選挙で既存大政党の退潮が顕著になり、特に中道右派を共和党(LR)は混乱状態です。2017年5月にマクロン氏が大統領選で勝利し、翌6月の総選挙では与党野党の大政党だった社会党やLRも大きく議席を失い、その状態は欧州議会選挙でも益々、顕著になりました。

 マクロン大統領も国民議会も発足3年目に入る今月ですが、フランス全土の72名の市長及び地方議員によるマクロン政権を支持する署名文書が、今月9日付けの仏紙ジュルナル・デュ・ディマンシュに投降されました。黄色いベスト運動が沈静化する中でフランス政治の安定と再編を望む首長らが地方から声をあげた型です。

 署名した市長らの多くは基本的に右派及び中道右派に属した市長や地方選出議員で、元上院議員でアンジェ市長のクリストフ・ベシュ氏を筆頭に、パリ15区のデルフィンヌ・ブリュキ区長、オルレアンのオリビエ・カレー市長など元はLRの有力政治家たちです。フィリップ仏首相に近いロマン=シュル=イゼールのソラバル市長も文書に指名しています。

 彼らの行動は、日本と制度の異なるフランスでの出来事なので、説明が必要ですが、実はフランスでは長い間、市長と国会議員の兼務など公職兼職が認められていました。例えば、国民議会(下院)議員で首相まで務めたアラン・ジュペ氏は長年、ボルドー市長を兼務していました。

 国会議員が知事や市長などを兼務するのは、その人物の評価に繋がり、公選の重要ポストを多く兼職する人物ほど有能とみなされる傾向もありました。それに地方の声が国政の立法府に届きやすいというメリットもありました。

 無論、少数に権力が集中する寡頭政治に陥ることへの批判もあり、2014年に公選職の兼職制限法が可決され、2017年の総選挙はその法律に従った初めての選挙だったのです。新法で国会議員職と兼任できない職務のリストには、市長、区長、市長代理、副市長、地域圏議会・県議会の議長および副議長(日本の知事、副知事に相当)などがあります。

 そのため、今回署名に加わった市長の多くも、2017年までは国会議員を兼務していた人物が多く、その時、落選したため市長を続けているという議員も少なくありません。同時に惨敗したLRからも離脱し、マクロン氏が立ち上げた中道の共和国前進(REM)に移動したり、宙ぶらりん状態の中道右派市長もいるわけです。

 つまり、フランスの現在の市長の中には国会議員として活躍した実力派が多く、自分の町の心配だけでなく、国政へ意識も非常に高い人物が多いということです。実はマクロン政権への批判が集中した市民運動である黄色いベスト運動は、公職兼職制限法施行後に起きたことなので、地方の声が国政に届きにくくなったと分析する人もいます。

 確かに今の国民議会の圧倒的多数派を占めるREMの議員は半数が政治経験もなく、市政にさえ関わった過去もない中、国会審議も通さずに大統領特権で労働法の改正など重要法案を次々に実施に移すマクロン政権に従っている状態なので、一般市民の声は届きにくくなってしまったのも事実です。

 とはいえ、国会議員と市長を兼務していた大政党の政治家エリートたちが失業や移民問題を長年解決できなかったために、彼らへの不信感も強く、元に戻す世論もありません。特に今は地元の雇用を支える企業の人員削減や工場閉鎖が最も深刻な問題で、市長の国政兼務では役に立ちません。

 今回、市長ら72名が出した署名文には「今は2022年の次期大統領選や議会選のために争っている時ではもはやない」と断り、地元市民の声を最も身近で聞いている首長や地方議員の役割は大きく、黄色いベスト運動から学んだマクロン政権が今後3年間、適正に政策を実行するため支えになるとの思いで署名したと説明しています。

 「私たちはフランスの絶対的な成功を望んでいる者たちで、失敗の上には何も成し遂げられない。共和国大統領と政府の成功を望んでいる」と書いた一方、決してマクロン氏の政治信条を全面的に支持するとは書いていません。

 支持率が20%台に低迷するマクロン氏には朗報とも言えるが、署名した市長らは、一定の距離を置く憂国の士といったところでしょう。興味深いのはフランスは日本のように国会議員が地方の首長職を下に見ることはなく、大臣経験者が政権が代わると副大臣になることもあり、その人事を不快に思わず、プロ意識で仕事をしています。

 日本でも公選職の兼務制度を道州制など地方自治改革で導入する議論はありますが、日本特有の利権誘導政治がある限り、兼務はデメリットの方が大きいかもしれません。ただ、地方の首長に優秀で国政への意識も高い人材が就くという点は考慮に値するかもしれません。

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