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 5月末に行われた欧州議会選挙で顕著だったのは、環境政党が伸びたことでした。大衆迎合主義のポピュリズムが予想さえたほど伸びなかったのに対して、たとえばドイツの場合、首位に立つキリスト教民主同盟(CDU)が得票率22.6%と2014年の前回選挙の30.0%から大幅に議席を減らしたのに対して、環境政党の緑の党は20.5%と前回の倍近い得票率で2位に躍り出ました。

 そのドイツは長い間、好調な経済により、大陸欧州では常に外国企業の誘致でトップだったのが、昨年は、フランスに抜かれ、逆にドイツ企業がフランスのマクロン政権の労働法改正などでビジネス環境が改善され、ドイツに近いフランス・アルザス地方などに移動する現象まで起きています。

 もともと環境政策で世界の牽引役を自認する欧州連合(EU)ですが、気候変動による地球環境の悪化を懸念する声は何度も聞かれましたが、世界の2大国のアメリカと中国が非協力的なだけでなく、経済成長を最優先課題とするEU諸国でさえ政財界は傍観状態です。

 全体としては、たとえば自動車が確実に電動化に向かっているなどの取り組みはありますが、代替エネルギービジネスは変化が激しく、収益に結びつかないケースもあり、足踏み状態です。環境政策を優先することが経済の活性化に必ずしも寄与しない状況があります。

 今回の気候変動による地球環境の悪化を懸念する声の高まりは、過去のリベラル派や左翼思想のイデオロギーを隠し持った社会運動家の大人によるものではなく、若者、それも10代の若者の間で、SNSなどで広がっているところが興味深いところです。無論、言論操作も背後にあるかもしれませんが、実際、気候変動は世界中の人が体感しているのは間違いのない事実です。

 何か危機的状況が迫る時、最も敏感に察知するのが若者です。過去の社会運動の歴史を見ても、天安門事件を含め、その始まりは若者でした。特に親の保護下にあって社会的制約から自由な10代の若者の感性は、十分な知識や経験はない一方、非常に鋭い感性を持ち、正義感も強いのが特徴です。

 昨年、16歳になったばかりのスウェーデンの女の子、グレタ・トゥーンベリさんは、気候変動対策に強い不安を感じ、「存在しないかもしれない未来のために勉強するのは意味がない」と抗議し、登校を拒否し話題になりました。その数ヵ月後、世界経済フォーラムでビジネスリーダーたちに向かって、即座に行動を起こすよう要求し注目を集めました。

 さらにポーランドで開催された国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)では、国連事務総長とその他の参加者に向かって「あなた方は、私たちの目の前で(子どもたちの)未来を奪っている」と訴え、まるで女性の教育の権利を主張してノーベル平和賞を17歳で受賞したマララ・ユスフザイさんのようなインパクトを与えました。

 彼女の行動をきっかけに欧州ではEU本部のあるブリュッセルで、若者たちによる数千人規模のデモ行進が行われ、世界300都市で推定160万人の未成年や学生が授業をボイコットし、若者主導による史上最大規模の行進が行われました。

 アメリカでは、グリーン・ニューディールといわれる運動が起きたりして、1960年代、70年代に広がった若者による反戦平和運動を思い起こす人もいるほどです。無論、そこにはトランプ大統領を嫌悪するリベラル派も存在し、欧州でも反トランプ派が気候変動対策で声をあげる若者を利用している側面も否定できません。

 とはいえ、気候変動否定説を唱えるアメリカの科学者も説得力を失いつつあるのは確かです。政治的意図は排除したとしても、気候変動に取り組むことは喫緊の課題であることは否定できません。トランプ氏がパリ協定から離脱した理由は、協定内容への不満というよりは、ディールに関わった人間が彼が嫌悪するリベラル派だったからです。

 今後の最大の課題は、環境政策と経済活動をどう矛盾なく結び付けるかです。環境対策を優先しすぎたために、フォルクスワーゲン社始め、大手自動車メーカーが排ガスや燃費で検査数値を改ざんする不正が起きたわけで、今のところは環境政策がビジネスを圧迫しているのは厳然とした事実です。

 環境ビジネスは、1時的に高まっても萎んでしまうのが常です。ちょうど健康にいい食品がおいしくないために広がらないのと似ています。そこに一工夫も二工夫も必要なわけですが、その工夫の努力が新たなビジネスチャンスを生むと考えるべきでしょう。

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