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 スイスのビジネススクールIMDが毎年発表している世界競争力ランキング、5月28日に発表した2019年版によれば、日本の総合順位は30位と前年より5つ順位を下げ、比較が可能な1997年以降では過去最低となりました。

 理由は、政府債務およびビジネス環境の悪化、生産性の低さにあるとされ、トップはシンガポールで当調査を開始した2010年以来、初めてです。シンガポールは2018年版でトップだったアメリカを抜き、先進的な技術基盤、高技能労働力、移民に寛容な法制度、新規事業立ち上げのための手続きの効率性が評価され、2位は香港で、アメリカはは3位に転落しました。

 このようなランキングは、参考にはなっても調査する項目や、その判断基準によって大きく変わるものです。たとえば、2018年10月発表の世界経済フォーラムによる世界競争力ランキング2018では、日本は過去最高の5位でした。それに比べれば、IMDのランキングは調査開始以来、日本は上下しながらも下降を続けています。

 ただ、どちらの調査でも、デジタルトランスフォーメーション、ビッグデータの活用などでビジネス環境整備で高い評価が得られていないことと、生産性の低さは共通しており、大企業は努力しているとはいえ、人工知能(AI)のエキスパートの人数の低さは、アメリカに比べ、顕著です。

 一方、日本の労働生産性の低さは、長年指摘されてきた課題ですが、実際、2017年の日本の1時間当たりの労働生産性は47.5ドルで、経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国の中では20位、先進7か国で最下位、アメリカの72.0ドルの3分の2程度と褒められたものではありません。

 欧米の専門家とビジネススクールなどで議論する時、必ず話題に上るのが生産性問題で「日本は未だに自転車操業で世界第3位の経済大国維持しているのか」と馬鹿にされることが多いのが現状です。

 日本の経営者やエコノミストたちは、生産性の低さを深刻に受け止めていない傾向があり、働き方改革や人手不足で、ようやく思い腰を上げて改善に取り組んでいるように見えますが、具体策が乏しいのが現状です。

 AIやRPA(ロボットによる業務自動化)を活用する環境整備を含め、生産性を上げるための投資や人材の配置転換は今や不可欠な状況です。企業によっては新卒採用でAIエキスパートの初任給を破格にするなどして人材獲得に取り組んでいますが、全体として効率化し、生産性を向上させる取り組みは初期段階といえます。

 無論、輸出主導型だった日本の製造業は、今や海外で生産し、日本企業の海外での稼ぎを示す直接投資収益は、2018年に初めて10兆円の大台を突破しています。その意味で日本国内の生産性や競争力だけを見てランキングされても意味がないという指摘もあります。

 海外の生産拠点では生産性を上げていても、日本の評価に反映されないという論ですが、多くの生産拠点のあるアジアは、労働基準の厳しい欧米と比べ、たとえば、米アップル社が中国の工場で中国人に過重労働を強いて問題になったこともあり、日本企業が海外では非常に生産性を向上させているとも一概にいえない側面もあります。

 もう一つは労働生産性向上は人材削減に繋がり、失業率を上昇させるという話です。だから効率性は追求せず、広く人を雇った方が失業者を出さずに済むなどという理屈は、役所でさえ効率性を追求する時代にはナンセンスです。

 総労働人口に占める公務員比率が高いフランスでも、私の義妹が民間企業から市役所に転職した10年前は、民間企業で1人でこなしていた業務を4人でしていることに呆れたといっていました。ところが今は2人でこなすように改善されたそうです。

 日本が長年、生産性を軽視してきた原因の一つは、日本人が「働くことこそ人生」と思い込んできたことにあると私は見ています。生産性の追求の裏には、いかに短時間、低コストで高いパフォイーマンスを出すかということがあります。

 欧米人だけでなく、東南アジアや南米の人々も、いかに短く働いて高い所得を得るかに注力しています。なぜなら、人生の中心は労働ではなく、家族や友人と過ごす豊かな時間、「生活の質を追求すること」に向けられているからです。

 勤勉を誇ってきた日本ですが、人生の優先順位が仕事にあることが、結果的に少子化を招き、家庭崩壊や精神異常者を生む原因になっていることは、日本の将来にとって深刻です。ライフ・ワーク・バランスと生産性は表裏一体です。一生懸命働かないと生きていけないという貧しい時代に作られた人生観が切り替わっていないともいえます。

 今回1位になったシンガポールでは、個人の資産運用意識が非常に高く、老後に向かって、いかに個人資産を増やすかということに一般市民もかなり知識を持っています。政府などあてにせず、豊かな老後を過ごすために、それも効率よく資産を増やすことを個人個人が取り組んでいます。このような国民意識も競争力ランキングを引き上げることに貢献しているように見えます。

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