Fabrica_da_Fiat_Chrysler_Automobiles_(FCA)

 フランスの自動車メーカー、ルノーが日産自動車に対して経営統合を迫る中、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)がルノーに対し、経営統合を提案しています。ルノーの筆頭株主であるフランス政府の強力なバックアップを含む統合修正案がFCAから出ていることが漏れ伝えられています。

 両社の株主が株式の50%ずつを持ち合う統合を目指すFCAは、2009年にイタリアのフィアット社側が経営不振にあえぐ米クライスラーに資本参加し、2014年には完全子会社化する形で誕生しました。かつてアメリカの3大自動車メーカーの一角をなしたクライスラー社は現在、登記上の本社はアムステルダム、税務上の本社はロンドンに置く企業になっています。

 イタリア・トリノを本拠地とするアニエッリ家創業のフィアットグループは、1990年代後半から、個人的に取材してきた会社です。故ウンベルト・アニェッリ元社長がフィアット財団会長時代にインタビューしましたがが、イタリアのサッカーチーム、ユベントスのオーナーでもあるアニェッリ一族はトリノに君臨する帝王家といった感がありました。

 アルファロメオやランチアを傘下に収める高級車から大衆車まで網羅する自動車産業だけでなく、鉄道車両まで幅広く手を広げ、当時のウンベルト・アニェッリ氏によれば、フィアットは日本の優れた生産システムや製品開発などで非常に多くを学んだと説明していたことを思い出します。

 イタリアの基幹産業を支えるフィアットは、様々な経営試練を乗り越えながら、今は、アニェッリ家の血を引くジョン・エルカーン氏が会長を務めています。現在43歳のエルカーン氏の母親は、フィアット家の中心人物だったジャンニ・アニェッリ氏の娘のマルガリータで、父はユダヤ系の作家、若い時から非常に計画的に経営者として育てられた優秀な人物です。

 オーナー系自動車会社という意味では、トヨタにもその性格はありますが、フィアットはさらに色濃いといえます。そのFCAがしかけるフランスの2大自動車メーカーの1つで、仏政府が出資しているルノーに持ちかけられた経営統合話は、両社の統合が実現すれば、世界第3位の自動車メーカーが誕生することになりますが、果たして吉と出るのでしょうか。

 日産、三菱自とのアライアンスを組むルノーにFCAが加われば、4社の総販売台数は1500万台を超え、トヨタやフォルクスワーゲンを抜いて世界首位の連合体となるわけですが、20年前に「規模こそ成功の鍵」といわれた時代は過ぎています。

 今はIT企業との大型連携、完全電動化などで自動車産業は根底からの技術変革が求められており、巨額の開発資金を必要としています。同時に電動自動車では中国の存在感が増す中、非常に選択の難しい時代に入っていることも否定できません。

 大手自動車メーカー同士の過去の経営統合は少なからず失敗に終わっています。ルノー、日産、三菱自の3社はアライアンスレベルで、この20年を生き抜いてきましたが、経営統合のレベルをクリアしているとはいえません。

 クライスラーは、かつて独ダイムラーとの経営統合交渉を進めた経緯があり、結局、その力関係、主導権争いで破綻しています。国の基幹産業の性格の強い自動車産業の経営統合には、様々な制限があります。

 今回のFCAとルノーのケースでは、「超強力なボス(FCAは故セルジオ・マルキオンネ前CEO、ルノーはカルロス・ゴーン氏)に率いられていないため、特定の人物の過大な影響力というリスク要因は制限される」と米ウォールストリートジャーナルは指摘しています。

 しかし、肝心の電動化技術でいえば、超保守的な欧州市場を基盤とするルノーとFCAは遅れをとっており、2社統合だけでは、弱者連合になりかねないという指摘もあります。つまり、2社の目は、電動化で先進技術を持つ日産に向けられていることになります。

 日産はその意味で、他人事ではなく、ルノー・FCAグループは日産との経営統合を織り込んだ形で交渉が進められていると考えるのが妥当でしょう。フランス政府は今回の経営統合が雇用創出を生むことが前提条件であることは確かです。

ブログ内関連記事
同族経営の大企業が腐らないための族経営者の子育て帝王学