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 フランス国立統計経済研究所(INSEE)が先月公表した統計によれば、同国の2018年のホテル、キャンプ場、ユースホステルでの宿泊数は合計4億3820泊で、前年に比べて900万泊増え、フランスを昨年訪問した外国人観光客数は、8,940万人と最高記録を更新しました。

 外国からの観光客数では世界トップを走り続けるフランスですが、昨年11月以降は毎週末にシャンゼリゼ通りなど観光スポットでも大規模なジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)抗議デモ運動が行われました。有名レストランや高級ブティックも破壊され、パリ中心部では地下鉄駅が閉鎖され、全国各地の道路封鎖などで観光業には大きな痛手を被りました。

 実際、昨年暮れのにクリスマス時期のパリでは、ホテルの予約キャンセルが相次ぎました。それにも関わらず、外国人観光客数は2017年の年間8,690人から3%増加しました。専門家の間では、黄色いベスト運動の悪影響は限定的だったが、それがなければ軽く9,000万人は超えていただろうと指摘しています。

 もう一つのいいニュースは、観光客の支出も過去最高を記録したことです。前年比で5%増の562億ユーロ(約7兆円)で、観光客数の増加以上の比率です。実は外国人観光客数では長年、フランス、スペイン、アメリカの順なのですが、観光収入ではアメリカ、スペイン、フランスの順で、外国人観光客1人当たりの支出で世界3位に甘んじています。

 2020年に1億人の観光客を呼び寄せる目標を掲げるフランス政府ですが、この4年間を見てもイスラム過激派によるテロが頻発し、それもパリやニースなどの観光都市で史上最大規模の犠牲者を出すような残忍なテロが起き、「フランスは危険」というネガティブイメージが拡がりました。

 それでも外国からの観光客は増え続け、世界1位の座を維持しており、東京五輪の後、2024年にはパリ五輪も控えています。

 特に今後を見据え、フランス政府が力を入れているのがアジアからの観光客誘致。2018年の地域別の観光客数では、アジアからの観光客が2017年に比べて7.4%増え、過去最大の増加率を記録した一方で、観光客全体の79%が欧州からという現実を見ると、まだまだアジアには伸びしろがあります。

 年間の外国人観光客の支出総額で見ると、訪日外国人観光客数は2018年、3,100万人でフランスは3倍近いのに対して、外国人の観光支出では年間4兆5,189億円と比較的多いといえます。全体の約34%と圧倒的割合を占める中国人訪日観光客に支えられての日本の数字ですが、東京五輪では飛躍的増加も見込まれています。

 観光大国フランスから見れば、日本のやるべきことは、まだまだありそうです。フランスの魅力は30を超える世界遺産に象徴される遺跡や歴史的建造物、ルーヴル美術館に象徴される膨大な美術品を蒐集する美術館の多さ、さらには地方ごとに特徴のある質の高い食文化、世界一洗練されているといわれるモードなどです。

 その一方で、おもてなし精神は世界最悪と言われ、改善されているとはいえ、その質はけっして高いとはいえません。つまり、おもてなしで不快の思いをする外国人観光客が多いにも関わらず、リピーターを含め、外国からの観光客は増え続けているわけです。

 日本は逆に、おもてなしは世界1と言われ、礼儀正しさで高い評価を得ている一方、街づくりには深刻な問題があり、最も伝統的な古い日本の街並みを残す京都でさえ、中心部の四条通り周辺にパチンコ店が乱立し、景観を著しく汚しています。

 全国隅々まで清潔、安全で極端な貧困地区もなく、どこでも高いサービスを受けられる点は世界に誇れるものですが、日本全国、街の景観を重視した都市計画が遅々として進んでいないことが観光に悪影響を与えています。

 たとえば、電信柱をなくすこと、安全な道路整備、景観重視の建築規制条例など、やるべきことはたくさんあります。フランスでは一定面積を超える自宅の建て増しには、景観や周辺住民のプライバシーも考慮した自治体の厳しい審査が必要で1年以上掛かったりしています。

 つまり、公共という概念が伝統的に徹底しているので、道路計画で立ち退かないで長年、抵抗するなどありえません。フランスでは魅力ある観光都市は、そのまま住んでみたい町でもあり、別荘も非常に多いのが特徴です。 

 逆にいえば、日本の観光業は、まだまだやれることが多く、伸びしろがあるということです。そのためには行政に携わる人々の意識改革や土地に関わる法的改正、縦割り行政の弊害をなくすなどの改善が必要でしょう。訪れた外国人からのフィードバックに耳を傾けることも重要です。

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