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 英国のブレグジットの混迷、5年に1度実施される欧州議会選挙でのポピュリズム(大衆迎合主義)政党の台頭は、過去のいかなる時代より、欧州連合(EU)を危機に晒しています。未だ改善しない移民問題、緊縮財政の苦しみ、失業問題等が、EUへの不満と不信感を増幅させています。

 言語も文化も異なった、それも過去には対立と闘争を繰り返してきた国々が経済から初めて政治的にも外交的にも統合進化拡大を試みてきたのがEUです。30年間EUを取材し続けた私としては、長年、苦楽を共にした英国のEU離脱に直面し、EU懐疑派が勢いを増す中、この難局をどう切り抜けるのかを見届ける必要があります。

 23日に英国とオランダで始まった欧州議会選挙は26日までにEU加盟28か国で投票が実施されます。今回の選挙は議会過半数を占める2大会派の中道右派「欧州人民党」と中道左派「社会民主進歩同盟」に対して、EU懐疑派が過半数を切り崩せるかが焦点の一つ。

 勢いを増すEU懐疑派には移民排斥、EUの抜本改革、反緊縮政策を迫る極左、極右までのポピュリズム政党が加盟各国に存在します。英国は離脱予定にも関わらず、3月末までに離脱協議がまとまらず、離脱撤回の淡い期待を持つEU側と離婚寸前なのに家族会議に首を突っこむ英国の無責任な選挙参加は、英国にも何らかの影響を与えるでしょう。

 EU懐疑派の極右政党・同盟を率いるイタリアのサルヴィーニ副首相は22日、EU加盟国の財政赤字と公的債務を制限する財政規律のルール廃止を呼び掛けました。経済政策がEUの財政規律に違反しているとして、再三警告を受けているイタリアの現政権ですが、緊縮政策に否定的な同盟と連立を組むポピュリズム政党の五つ星運動は反対の立場を表明し、混乱しています。

 勢いに乗るフランスの右派・国民連合のマリーヌ・ルペン党首は先月、公約として「国家の集合体としての欧州」をめざすとして、欧州委員会の廃止を提案しています。EU懐疑派も単純な反EUというだけでなく、機構改革に踏み込んだ主張を行い、幅広い層の支持を得る方向で選挙に望んでいます。

 そもそも今、世界にはポピュリズム旋風が吹き荒れており、その最大の理由は政治とは関係のないところでグローバル化が加速し、一方でITや金融界で成功した新しい超富裕層が登場し、超贅沢なセレブ生活を見せつける一方で、グローバル化がもたらした産業の空洞化で取り残された人々が先の見えない状況に追い込まれていることへの不安や不満が根底にあるにあるといえます。

 つまり、なかなか、一国の力ではどうにもできない状況があるために政治家の無力さが露呈し、特に既存政党に不信感が漂い、フランスのように39歳の若いマクロン氏を大統領に選び、創設して1年も経たない新政党に議会で圧倒的議席を与えるような現象が起きているわけです。

 やり場のない国民の感情を受け止めているポピュリズム政党ですが、移ろいやすい人間の感情に支えられているために明確なヴィジョンも定まらず、迷走を繰り返す結果になっています。ブレグジットでも離脱強硬派のファラージ氏は典型的なポピュリストで、無責任で公約を簡単に翻していますが、今回の欧州議会選挙でも人気を集めています。

 つまり、グローバル化にうまく対処できない既存政党への不信から、ナショナリズムや民族主義が台頭し、彼らの感情を受け止めてくれるポピュリスト政治家に人気が集まっている状態です。実はアメリカのトランプ大統領も、もともと共和党候補ではなく、独立候補でした。そのため共和党ともぶつかっています。

 気がつけば世界中に中国製品が溢れている現実をみれば、安くでいい製品を手にできる一方で、自国経済は傾き、労働者の職は中国人に奪われている現実もあるわけです。遠い異国での生産で輸送によって発生するCO2で温暖kが進んでいます。

 ビジネスのロジックだけで安い労働コストを求め世界を移動した結果、今や技術まで盗まれ、中国企業に先進国の国民が使われる時代も到来しています。

 つまり、ポピュリズムが問題ではなく、グローバリズムを世界がどう扱うかという問題です。従来通りの考えなら、小さな政府が経済活動を支援さえしていれば、経済は発展するはずでしたが、強大な権力を持つ中国が戦略的に巨額の補助金を出し、強引に技術移転させる状況では、小さな政府は無力といえます。

 だからこそ、世界の新たなフレームワーク作り、ルール作りが喫緊の課題ですが、冷戦後のグローバリズムの暴走した世界を仕切り直そうとするトランプ氏以外には、その試みに真剣な国はないように見えます。

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