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 2018年のフランスの女性1人当たり生涯に産む子供の合計特殊出生率は1.87(仏人口統計研究所)とされ、微減ですが2017年の1.88を下回り、2015年以降4年連続の減少となりました。少子化克服国といわれたフランスに陰りが見られるとの指摘もあります。

 出生率が下降線を辿っている要因については昨年、仏国立統計経済研究所(INSEE)の分析で、フランス人の出産・育児年齢の20から40歳の女性人口自体の減少が2015年以降に加速していることが指摘されています。私は過去に週刊東洋経済誌や月刊正論に少子化対策でフランスは参考にならないという記事を書きました。

 この記事について、フランスの少子化対策を羨望を持って仰ぎ見る人たちから批判されたこともありますが、今でもその考えは変わっていません。手厚い給付の受け手の立場の子育て世帯にはありがたいフランスの家族政策ですが、抱えている問題も異なり、制度設計上、相当な無理もあると思っているからです。

 それはともかく、フランスの出生率低下を一時的と見るか、今後も下がり続けるかはしばらく見る必要があります。30年近く、このテーマを追ってきた私としては、フランス社会が過去にないほどの大きな変化に晒されていることから考えると、今後も下降線を辿る可能性は高いと見ています。

 リーマンショックの起きた2008年以降、緊縮財政政策を取るしか選択肢がなくなったヨーロッパ先進国は、家族政策を含む社会保障支出の抑制に入り、遅かれ早かれ、その影響が出始め、子育て支援に手厚かったフランスも、その影響が出始めているといえます。


 人口と国家の経済力の関係には、さまざまな議論がありますが、フランスは国力の保持と人口政策をかなり露骨に関連づけている国です。そのため、白人フランス人カップルが子供を産まないなら、アラブ系移民や今増えつつある中国系移民に子供を産ませてでも人口は保持したい考えです。

 白人フランス人も国が事実婚や同性婚など結婚形態の多様化を認め、たとえ婚外子であっても人口増加に繋がれば良しとする方向です。20年前のジョスパン左派政権で民事連帯契約(PACS)が施行され、2013年には同性婚とともに同性カップルの養子縁組も合法化されました。

 さらに人口増加の最低ラインであるカップルが3人以上の子供を産むために、働く女性の3人目以降の出産、子育てを手厚くすることや、最も出産を躊躇する要因にもなる教育負担を減らすことに注力してきました。一方、昨年来、大学の登録料値上げなど、高等教育負担は増える傾向にあります。

 では、フランスの家族政策に見習うべきはまったくないかといえば、そうではありません。それは福祉の基本中の基本である正確な現状把握を行う政府の姿勢にあります。つまり、当事者からのフィードバックの重視です。フランスでは、1982年に家族全国会議(現家族児童高齢者協議会=HCFEA)が設置され、今に至っています。

 構成メンバーは首相を含む関連省庁の大臣、自治体議会の議長、労使団体、家族協会全国連合、出産、育児、教育の専門家などで定期的に会議が開催され、現状の問題点の洗い出し、施行された政策の進捗状況や課題の抽出を行っています。2017年に2歳児までの育児体制の充実を計る時も、ありとあらゆる関係者へのヒアリングが専門家によって実施されています。

 人口政策に重きを置くフランスとしては、的確な家族支援を行うのは当然という考えもあり、社会の変化に伴う家族の有り様を把握し、政策に反映させていくことに本気で取り組んできたことが、この会議に表れています。それも政権交代に左右されない継続性を優先し、超党派で取り組んでいます。

 たとえば、左派のオランド前政権で2歳児までの保育を行う保育アシスタント(日本の保育ママに相当)の質向上のための専門家によるトレーニング制度は、今の中道のオランド政権にも受け継がれ、充実が計られています。

 ともすれば政党や政治家の人気取りで官僚が政策立案し、バラマキに終わりがちな社会政策ですが、フランスの家族政策は首相、閣僚、官僚、当事者、専門家、事業者が同等な発言権を持ち連携が重視され、実際の効果についても丁寧に追跡し、その都度変更を加えているところが注目点です。

 無論、今の時代、国の運命は、外からの要因に左右されることが多く、最もドメスティックな社会政策も例外ではありません。フランスも厳しいグローバル経済戦争に巻き込まれ、週労働35時間は形骸化し、マクロン大統領は「フランス人はもっと働くべき」と発言しています。

 実際、ライフ・ワーク・バランスでいえば、今まで生活の質向上が最優先だったのが、フランス人の軸足は明らかに仕事に向かっているのも事実です。当然、出生率低下の遠因になっているともいえますし、メンタリティそのものが変化していると感じます。

 とはいえ、フランスで行う現状に則したきめ細やかな家族政策は大いに見習うべきだと思います。現在、フランスの家族政策の政策立案、実施、運営を行っているのは、家族・児童・女性の権利省(通称、家族省)ですが、これまで特命担当大臣管轄だったのが、2016年2月から省に格上げされており、危機感の表れと本気度が伺えます。

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