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     会社のためよりスマートワーク?

 大手日本企業で海外赴任経験が豊富な人が独立し、グローバルビジネスのコンサルタントや人材育成に関わるケースは少なくなりません。そんな方々の書いた著書も出版されています。いずれも貴重な体験が散りばめられ、成功の秘訣が書かれた示唆に富む著書です。

 しかし、その大半にあるのは愛社精神だったり、必死で24時間働き続けた記録だったりで、果たして今の若い世代の日本人の心に響くのだろうかという疑問が沸きます。最近、タイやベトナムなどアジアで出会った30代前後の日本人赴任者に同じ質問をしてみて驚いたのは、赴任前に「できれば海外では働きたくない」と考えていた人が約8割にも登ったことでした。

 それも、その企業に入れば、海外赴任の可能性が高い企業でも同じでした。某大手メーカーで10年以上前からグローバルビジネス研修を担当していますが、人事担当者は「海外の厳しい現実を受講者に分からせてください」と言われ、厳しい異文化の現実をケーススタディなどで扱うと、受講者の中には「それが現実なら、僕は無理です」とか「面倒くさいですね」という反応が返ってきます。

 それを担当者に伝えると「わが社は、そんな人を採用していませんが」などと言われます。某大手IT企業の研修で、私の妻がフランス人だといったのを聞いて、フランス駐在経験のある受講者の一人が「異文化って大変ですよね。先生はなんでそんな面倒くさいフランス人と結婚したんですか」と質問され、驚いたことがあります。

 たとえば、大手企業で豊富な海外赴任経験を持つ方の話の中で、ナショナルスタッフとは公私に渡って付き合うべきという話があります。同じ人間として、日本でも会社の同僚と飲みに行ったりするわけですから、私も当然だと思います。むしろ、日本人は海外ではそれが苦手な方です。

 男性は特に食において限界があります。家族で駐在している場合は、ほとんどの男性は和食しか食べていません。某大手電気メーカーの方は、すでに30か国以上を出張で周り、赴任国も5か国になるといいますが「現地では、やはり和食レストランにしか行きません」といっていました。

 食文化を誇るフランスでさえ、妻がフランス料理の教室に通い、腕を振るってフランス料理を出しても「夫は箸をつけようとしない」と嘆く声を何度も聞きました。もっとも最近の夫は弱いので妻が出した料理は仕方なく食べているケースも増えていますが、外食では相変わらず和食が圧倒的です。その意味で現地に馴染む努力は足りないと思います。

 しかし、「会社のため、仕事のために、現地の料理を食べるべきだ」とか、「徹底してナショナルスタッフの同僚とプライベートでも付き合うべきだ」というアプローチはどうなのかと思います。相手も人間なので、相手の心に飛び込むには、公私ともに交流を深めるのは、特にアジアにおいては重要ですが、それはプライベートな時間を費やすことになります。

 古い世代であれば、会社のために24時間、365日働くのは普通だったのでしょうが、ただでさえ海外赴任はプライベートな時間を含め、完全に赴任国に拘束されているわけですから、そこでプライベートな時間を無視して会社のため仕事のために全力投入すべきというのは、超日本人的発想で、今の「面倒くさい」世代には疑問符です。

 日本独特の終身雇用だったり、年功序列だったり、退職金制度などに支えられて、家族的経営と愛社精神が成り立っていた時代は消えつつあります。海外に出ると多くの日本人駐在員は、会社のミッションで来ているわけですから、愛社精神や忠誠心は強くなるといわれますが、そんな時代も続かない可能性の方が高まっています。

 ナショナルスタッフと飲み食いするのも、ゴルフをするのも、全て会社のため、結果を残すためという姿勢は、愛社精神のない面倒くさい世代の心には響かないといえるかもしれません。彼らは自分自身が楽しむことが重要で、楽しめないことを「面倒くさい」といっているわけですから。

 私は彼らに対しては、海外経験は自分の視野が拡がり、発想が豊かになり、確実にキャリアアップに繋がり、さらには、より人生を楽しめるようになることも強調しています。問題は彼らの多くが高度成長時代のような向上心、上昇志向を持たず、公私に渡り小さな幸せで満足していることです。

 いってみれば、豊かになった日本の働き方、生き方のリセットが明確にされていないところに、貧しい時代の働き方で生きてきた人たちが、自分の体験を教えている構図もあるわけです。だから、若い世代はなかなか共感もできない。

 そんな彼らが海外赴任を楽しめ、仕事のスキルも人間としても成長させられる希望を与えるのが私の仕事になっています。異文化はおもしろい、異文化は楽しい、異文化は自分を育ててくれると思えなければ、困難を乗り越えることはできないのですから。


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