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 ウィキリークスの創始者ジュリアン・アサンジ容疑者の逮捕されたことで、ウィキリークスの影響力低下の加速が指摘されています。すでにロンドンのニカラグア大使館に逃げ込んで以来、勢いを失っていたウィキリークスですが、われわれはこの数年、ネット空間の利便性と危険性について、何を学んだのでしょうか。

 最初は宗教団体や極右団体がターゲットだったウィキリークスは、2010年には25万点を超える米国務省の外交公電やアフガニスタンやイラク戦争関連の文書約50万点を公表するようになり、極秘文書の開示はアサンジ氏が主張していた正義や透明性ではなく、政治的意図さえ認められるようになりました。

 私は個人的に当初からアサンジ氏の主張には大きな疑問を持っていました。私もジャーナリストの端くれとして、組織や個人の腐敗や違法性を取材し、追求する意味は分かっているつもりですが、かつて左翼ジャーナリズムが自分たちの使命は権力監視にあるといいながら、彼らの反権力思想をダブらせ、物事を正確に理解するメディアたりえなかった問題も認識しているつもりです。

 つまり、私はメディアが正義の名のもとで自分たちの信じる思想・信条の流布のために情報を捏造したり、人を陥れたりする実態を見て、メディアの危うさ、傲慢さを思い知ったのです。その意味で、超リベラルなアサンジ氏は最初から、自分が嫌っている米宗教団体、サイエントロジーや極右団体を攻撃のターゲットにしていました。

 いいかえれば、この情報戦の時代に透明性と自由の守護神のように振る舞うアサンジ氏は、自分が神にでもなったつもりなのかと思っていました。ジャーナリズムにとって隠された不都合な実態を明らかにすることは重要な一方、自分が裁可を下す権限はなく、どこまで何を明らかにするかの判断が問われるところです。

 米国防省が公開していない情報には、たとえば国益を守るために命懸けで働く人々の情報が含まれ、開示すれば彼らを危険に晒すことになるのは間違いありません。それに最も問題なのは情報入手方法の違法性です。ネット社会の恐ろしさはそこにあるといってもいいくらいです。

 ウィキリークスは情報入手方法を開示していませんが、彼らは機関や個人に直接、情報請求を行っていないとし、主に第3者からデータを受け取っていると述べています。たとえば、アイスランド政府に関するデータ入手で、アサンジ氏の側近が、政治色の強い国際的ハッカー集団「アノニマス」から情報を得ようした証拠が見つかったりしています。

 無論、かねてからウィキリークスには公表できない組織の資金援助が指摘されており、正義では語れないものを感じますが、同時に稚拙さや偽善性も強く感じます。正義をかざす軽薄なオーストラリア人が、一国どころか世界の行く末を左右するアメリカの大統領選に影響を与える情報を流出させるようなことは、危険な道具を子供に与えているようなものです。

 アラブの春の時のウィキリークスの活動のように、一見、独裁国家を攻撃し自由と民主主義の拡大に貢献する活動をしているように見られていたのが、今では国家を分断する情報を流し、混乱と悲惨な結末をもたらしていると見られています。

 ウィキリースにせよ、アノニマスにせよ、薄っぺらい正義と教養のなさを背景に、ネット上で共感した者たちが集まって自然発生的に活動の輪がが拡がったことから、専門家の間では、アサンジ氏を失ったウィキリークスには有力な後継者がいないため、崩壊していく可能性も高いと指摘されています。

 闇を暴くといいながら、情報発信者やハッカーが自分の身元を明かさず、無人格を装うのは大きな矛盾であり、無責任です。われわれはネットの利便性と同時に、この数年、無法地帯のサイバー空間の危険性も認識するようになりました。

 今後、第2、第3のウィキリークスが登場する可能性の否定できません。情報を制するものが世界を制すといわれる現代、サイバー空間は犯罪が横行する人間社会と何も変わらないことを見せつけているともいえます。