DisneyLife_Streaming_Service
    英国で展開するストリーミングサービス「ディズニーライフ」

 米娯楽・メディア大手、ウォルト・ディズニー株が12日、米株式市場で急伸し、上場来高値を更新し、同社の新しいストリーミングサービス「ディズニープラス」への期待が高まっています。同社は競合最大手ネットフリックスなど多くの企業がすでに参入するテレビやスマホで娯楽作品が観られるサービスを、今年11月12日に開始するそうです。

 料金は米動画配信最大手ネットフリックスの主力プランが月額11ドルなのに対して、月額7ドル(約780円)で提供するそうで、向う約5年間は収支とんとんにならない見込み。それでもディズニーのアグレッシブなチャレンジ精神に投資家は期待感を示し、12日の市場でディズニーは一時12%高、日中ベースで2009年5月以来の大幅上昇とブルームバーグなどが伝えました。

 これとは逆に業界最大手のネットフリックス株は、一時5%安になったのを見ると、ディズニープラスがネットフリックスを脅かす存在として浮上していることを物語っています。懸念材料としては目まぐるしく変化するネットテクノロジー環境の中でストリーミングサービスの5年後が、どうなっているのか誰も想像がつかないことです。

 ディズニーは11日、映画「メリー・ポピンズ」を撮影したスタジオで、アップルのような派手なプレゼンテーションを行い、投資家を対象にサービス内容を説明したことも、アメリカでは功を奏したのかもしれません。とにかく、膨大な人気の高い娯楽作品の制作を手がけてきた同社の強みは計り知れないということでしょう。

 ディズニーは、これまで映画館やテーマパークの集客力を武器にハリウッドの頂点に君臨するまでに成長、これまでは多くの作品がネットフリックスを通じて配信され、Win Winの関係だったのが、今後は最大の競合相手となるわけです。

 ITビジネスへの本格参入はディズニーにとっては初めてのことですが、体力のある同社にとって世界一豊富な娯楽商材を流すITサービスへの参入は当然の流れかもしれません。難しい部分といえば、流すコンテンツが同社が築き上げてきた企業イメージを損なってはならないという部分でしょう。

 それは、テーマパークや映画制作で培ってきた企業文化そのものを根底から変えることにもなるからです。同社はすでに提供できる映画や番組の数を増やすため、713億ドル(約8兆円)で21世紀フォックスの主な娯楽資産を買収、コンテンツの充実や高い質の配信サービスを準備しているといいます。

 何がディズニーの企業文化に変化をもたらすかといえば、ひとつは従来のビジネスは完璧で質の高さが要求されるクリエイティブな「もの作り」が中心だったのが、完璧さより、変化への迅速な対応が必要なITテクノロジー産業にシフトする必要があることです。

 米ウォールストリートジャーナルは、その点を指摘しており、同社はすでに英国で、2015年11月から同社初の単体のストリーミングサービスとなる「ディズニーライフ」を開始したが「1部のコンテンツは既に他のケーブルサービスで視聴できたため、サービスの魅力は損なわれ、いかにして既存の配信契約を管理しつつ、独自のストリーミングプラットフォームを提供するかが課題だ」と指摘しています。

 同社はすでにストリーミング事業を優先するための組織再編も行い、「ピクサー、ウォルト・ディズニー・アニメーション、ルーカスフィルム、マーベルの各制作会社は、旧作と一緒に提供可能な番組や映画を新サービス向けに作るよう指示された」と、ウォールストリートジャーナルは報じています。

 英国のストリーミング事業の教訓のひとつが、新作だけでなく、旧作を観たい鑑賞者が多いことだそうです。それは今後のディズニー作品の制作にも反映されており、「スター・ウォーズ」や「ハイスクール・ミュージカル」のスピンオフなどに反映されているようです。

 今後、もの作りや子供たちに感動を届けるクリエイティブな世界に共感して、働いている従業員の離脱も懸念されます。ソフトビジネスからハードビジネスへの参入は、その意味では大きな賭といえそうです。