hands-2692451_960_720

 ベトナム・ハノイでの第2回米朝首脳会談で、アメリカのトランプ大統領は「あなたの国はとてつもない経済的潜在力を秘めており、あなたは偉大なリーダーだ。それ(経済発展)を目にすることを楽しみにしているし、また、実現を手伝いたい」と述べました。

 一方、金正恩朝鮮労働党委員長は「こうして素晴らしい再会ができたのは閣下(トランプ大統領)の大胆な政治的決断があったからだ」「不信と誤解の敵対的な古い慣行が、われわれが進もうとする道をふさごうとしたが、それを克服してハノイまで来た」と述べました。

 単なる外交辞令の発言とも言えなくもありませんが、過去何年にも渡る両国の厳しい凍りついた敵対関係を考えると、何かが両国間で動いているのは確かでしょう。特にトランプ大統領がいう「北朝鮮は非常にポテンシャル高い国で経済的成功を収めれば大国になれる」という発言は数日前から繰り返されており、その超ポジティブアプローチは想定外ともいえるものです。

 北朝鮮は今、軍事大国から経済大国をめざす転換期にあり、トランプ大統領は、ベトナム戦争後もカンボジアと戦い、疲弊した最貧国だったベトナムが奇跡の経済回復を遂げたことを同じ社会主義国として「手本したらどうか」とアドバイスしています。

 交渉術の基本は相手がめざすものを正確に理解し、それに則して交渉を行うことです。トランプ大統領はまさに金正恩氏のめざす方向性に理解を示しながら、それも経済発展であればアメリカも歓迎できるものとして支援していきたいという姿勢を示したわけです。

 無論、アメリカはペンス副大統領がいうように、中国を素晴らしい経済パートナーになれると期待し投資したが、アメリカの知的財産を盗み、得た経済力を軍拡に使い、覇権主義に走ったことに失望した経験もしました。そのため、北朝鮮が経済発展する過程で非核化どころか、さらなる軍事大国をめざすなら、話は別です。

 これまでの国際常識では、社会主義の金一族による独裁国家は世界に害をまき散らす危険な国として封じ込める方向で国際協力していたわけですが、もし、本気で非核化し国際ルールを守るなら、単なる人道支援ではなく、経済大国への道を後押しするというポジティブアプローチは新しいといえます。

 無論、中国の改革開放政策にしてもベトナムのドイモイ政策にしても、社会主義体制下の統制経済を緩めたわけですから、リスクも伴います。中国もベトナムも集団指導体制なのに対して北朝鮮は金一族による支配体制を維持したいわけですから、統制経済を緩和しすぎると体制維持が難しくなる可能性もあります。

 欧米先進国は、中国に対してもベトナムに対しても、経済的に豊かになれば、国民はより自由や権利を主張するようになり、社会主義体制は崩壊するとのシナリオを描いて投資したわけですが、中国が脅威の存在になった経験をしています。特にアメリカは今、中国の押さえ込みに必死です。

 だから、トランプ氏の超ポジティブアプローチも北朝鮮の方向性がアメリカの望む方向と合致しない限り、経済協力はありえない話です。トランプ氏は対北朝鮮制裁は非核化するまで解除しないとの原則を今のところ貫いていますが、問題は金正恩が経済政策でどこまでアメリカの提案に心が動くかです。

 朝鮮半島に住む過去を知る何人かの人から聞いた話では、北の人間の方が南より優秀ということだそうです。たとえば光州事件を起こした南の全羅道は、非常にリベラルで難しい性格の人が多いといわれ、韓国の歴代大統領の中で、唯一金大中だけが全羅道出身で、そもそも韓国の地域対立は有名です。

 一方、北は地域対立は独裁国家なので抑えられている可能性がありますが、政府中枢で働いていた脱北者は皆、非常に優秀といわれています。実際、この10年間、北からアメリカに留学した優秀なエンジニアが核開発を独自でやれるまでレベルを押し上げたといわれています。

 実力のない韓国は日本支配を理由に多額の賠償金を受け取り、今また、経済が厳しいために、姑息にも従軍慰安婦や徴用工問題を理由に日本から金をもぎ取ろうとしています。北は国際ルールを無視した方法ですが、中国やロシアとうまく付き合いながら、孤立する中でも自力で生き延びてきた実力があるという見方もできます。

 外交交渉は相手の心を動かすことが主眼です。特に独裁国家である北朝鮮の場合は、金正恩委員長の心一つで全てが変わってしまう可能性を秘めているため、首脳同士の直接対話は非常に大きな意味を持ちます。トランプ氏は北朝鮮がアメリカに牙を剥いて軍事的脅威を与えたリスクをチャンスに変えようとしているともいえます。

 軍事的衝突を避けたい中国やロシアも、トランプ氏の交渉を見守るしかない状況です。トランプ政権を国内で支える福音派の伝統保守層は、原則を曲げること最も嫌う人たちです。その支持基盤を失いたくないトランプ氏が安易に北に妥協するとは思えません。実際、米国が求める核放棄の条件を満たさず、北が制裁完全解除を求めたため、トランプ氏は交渉を途中退席しました。

 つまり超ポジティブアプローチの背後に国内で重んじられる正義の価値観があり、外交にも影響を与えているということです。それもアメリカの民主党が人権外交にこだわったのとは違い、普遍的価値観を持つアメリカの国益を守り、世界の安定に貢献しようという方向で動いているのがトランプ政権といえます。

 トランプ大統領のリスクをチャンスに変える超ポジティブアプローチに1つ加えるとすれば、もし朝鮮半島が統一と経済発展を実現できれば、日本、アメリカ、中国、ロシアの関係改善に大きな役割を演じることになるだろうということでしょう。そのビジョンが共有できた時に初めて、東アジアに平和が訪れるのだと思います。

ブログ内関連記事
ベトナムで第2回米朝首脳会談を開催する意味は想像以上に重く大きい
ベトナムのGDP成長率6.5%に上方修正をどう読むか
人の足を引っ張る韓国の稚拙で悲しい悪習が国の価値を貶めている
リスクを取る交渉術 被害を最小化するための人間の感情への配慮とは