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 タイで過去に発生した事例ですが、日本からの重要な部品の到着を待つ日系自動車部品メーカーのバンコク支社調達部長の橋本さん(仮名)は、タイ南西部の顧客の日系自動車メーカーへの納品業務で深刻な問題に直面したことがありました。

 日系企業が非常に多く、自動車業界もアジアの拠点として大きな役割を果たしていますが、タイは日頃は政治的に安定していますが、洪水や政府への抗議デモがエスカレートすることもあり、ビジネスも影響を受けています。橋本部長が遭遇したのは、ストライキで空港が閉鎖されたことで起きました。

 顧客のメーカーA社は、ベトナムに出荷する自動車の納入期限が決められていたのですが、もし、部品供給が遅れれば、納品に影響する状況だったそうです。橋本さんは空港閉鎖で輸送機能が麻痺し、日本からの入手が困難な状況に置かれ、現地調達が困難な部品だったために途方にくれていました。

 しかし、タイ勤務が4年目の橋本さんは、これまで何度も同様なデモやストライキに遭遇し、その度に乗り越えてきましたが、その経験からすると、タイではデモは連鎖現象を起こすことが多く、今回の場合、税関職員もデモに参加し、  橋本さんは、最悪の状況をも想像しました。

 過去において、同様な状況に陥った時、橋本さんは、まず、社内の運輸担当者のリスク管理への対応を責め、抗議デモやストライキを実行する現地の人々に対する怒りが込み上げ、  さらにそのためにビジネスが被害を受けることを知りながら、混乱を回避できない政府への怒りで、頭がいっぱいになり、職場のタイ人に当たり散らしたこともありました。

 また、空港関係者と喧嘩したことも何度もありました。ただ、いつも、事態の収拾にはつながらず、空港貨物職員との関係は悪化し、顧客からのクレーム対応でも、デモへの責任転嫁だけでは理解を得られませんでした。

 ですが、橋本さんは最近、この政治的混乱が引き起こす混乱を繰り返す現実を受け入れるようになり、その結果、自分の目の前で起きる事態を冷静に見られるようになったというのです。

 橋本さんは、顧客に対して、別のルートで部本調達を試みていることや、タイの日系企業が合同でタイ政府に軍の飛行場が使えないか交渉していることも伝えました。さらに混乱の推移と今後の状況展開について、より正確な情報と分析をリアルタイムで伝え続ける一方、混乱が終息した場合の緊急輸送体制を整備し、そのことも顧客に伝えました。

 部品を待つ顧客が橋本さんからの情報をもとに、3日間だけ待つことを決断し、結果は翌日に混乱が終息し、期限内の納品ができ、事態を収めることができましたそうです。

 この事例から学べることは、橋本さんの長い駐在経験で異文化耐性ができ、自分で解決できることと、自分ではどうにもならないことの切り分けができ、冷静に対処できたことでした。つまり、アンガーマネジメントがうまくできたことが、無駄な動きやミスを避けられたことになります。

 日本的常識が通じない海外の現場では、往々にして起きることですし、事態が悪化すればカントリーリスクに発展し、クーデターが起きたりもします。事実、タイではクーデターが起き、政権が転覆する事態になりました。そんな時、こうあるべきだという日本的常識の「べき論」が優先されると感情のコントロールは難しくなります。

 まずは、事態を受入れ、自分がリスクマネージメントの中心にいるリスクオーナーである自覚を持ち、情報収集と的確な対処ができるよう努めることが重要です。

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