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 中国は、小平が打ち出した改革開放政策から40年が経ち、記念式典が行われました。習近平国家主席は人民が豊かになれたのは、中国共産党のおかげであることを強調し、さらに「今や中国は世界の中心に立とうとしている」と、露骨な中華思想を持ち出し、党の功績を自ら讃えました。

 紆余曲折のあった改革開放政策ですが、文化大革命で疲弊した経済の建て直しに大きな一歩を踏み出し、外見的には習近平が強調するように世界第2位の経済大国、世界第1位の製造大国になったのは事実です。無論、富の極端な偏り、不公平感の高まりの中で迎えた40周年でした。

 そこで思い出すのは、小平の改革開放政策の基本原則「先に豊かになれる者たちを富ませる」という先富論です。当時、社会主義経済から市場経済に舵を切ったことが注目され、事実、1990年以降は2桁台の経済成長を続け、結果的に流動資産100万ドル以上の超裕福層は300万人に迫る勢いで、中間層も30年前の1,000万人が6億を超えているといわれています。

 しかし、先富論の基本原則には、2つ目の原則があります。それは「落伍した者たちを助けること、富裕層が貧困層を援助することを一つの義務とする」というものです。社会主義国としては、当然の考えですが、それをシステムではなく、人の行動規範とする精神論にしているのは無理があります。

 なぜなら、キリスト教やイスラム教といった宗教には、弱者救済の精神が根付いていますが、富を奪い合う歴史しかない中国、しかもシステムとして富を一旦、国が強制的に集め、再分配する共産主義を採用した国では、人間のモラルとしての弱者救済精神を期待するのは無理があるからです。

 実際、中国の超富裕層は、海外で不動産を買いあさり、資産を隠し、子供たちはアメリカに留学させ、超セレブな生活を親子でしていることが知られています。もともと見せる文化の中国では、自分がいかに金持ちであるかを見せつける快感に酔いしれるところがあります。

 先富論が中国経済を驚異的に発展させられたのは、豊かな生活を追求する人間の欲望を肯定し、それを原動力にしたからです。見本はなんと日本だったともいわれています。しかし、喜びや満足には、他の人を幸福にするという欲望もあります。それも見返りを要求しない人道支援活動などで得られる喜びや満足感の高さが、それを証明しています。

 もともと中国にも報恩思想があり、20年以上、満州で過ごした私の祖父母や18歳まで大連にいた母から、中国人の義理堅さを聞かされたものです。その意味では「今の中国人は別人だ」と、よく母はいっていました。習近平の今回の1時間を超えるスピーチは、「中国共産党及び私に感謝しろ」と言わんばかりで、奉仕者という姿勢は皆無です。

 農家から都会に出稼ぎ出る中国の農民工たちは、高等教育を受けられないために、知識や能力が高度化する職場から弾き飛ばされ、大都市でホームレス化しています。国民の半数が貧困層という現状の中で、富裕層が思い出すべきは「落伍した者たちを助ける」2番目の基本原則ですが、富の魔力にとりつかれた彼らには縁遠い話です。

 欧米からみれば、改革開放で貧富の差が拡がれば、やがて社会主義国家体制は崩壊するという読みでしたが、実際にはそうなっていません。中国の歴史や彼らの精神を理解していなかったからだと思います。先富論の2つ目の原則をシステムとして導入すれば硬直化した共産主義へ逆戻りし、富の毒を飲んだ富裕層は納得しないでしょう。

 だからといって、儒教を復活させ腐敗防止に役立てようとしたように、先哲の精神論を持ち出して弱者救済ができるかといえば、それも難しいでしょう。中国は文化大革命に次ぐ大きな岐路に差し掛かっているように見えます。

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