明治維新による開国で世界とのさまざまな文化交流が始まった日本は、芸術や工芸面では特にヨーロッパとの交流が本格化しました。日本は西洋に学び、フランスは日本美術から、さまざまなインスピレーションを得て、ジャポニスムが拡がっていきました。

 そんな時代から今に至るまでの日本とフランスの美術交流をパリの装飾芸術美術館が「ジャポン-ジャポニスム:日本から生まれたオブジェたち1867-2018年」展と題して開催しています。同美術館は日本の工芸品コレクションの所蔵で知られ、そこにさらに日本から提供された作品や日本の影響を受けた西洋の作品群を展示し、両国の優れた美術交流の足跡を紹介しています。

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歌川広重 名所江戸百景より「浅草金竜山」 1856 Musee des Arts Decoratifs Ⓒ MAD Paris / photo Jean Tholance

 今年は日仏友好160周年のイベントがフランスでは目白押しですが、同展も「ジャポニスム2018」の公式プログラムのひとつ。実は装飾芸術美術館は1869年に、フランスでは始めてとなる日本美術に焦点を当てた東洋美術を本格的に紹介する展覧会を行った美術館で、以来、傑出した日本の作品蒐集を行っています。

 日本とフランスを繋ぐ最も大きな要素が、政治外交や経済、技術ではなく、美術にあった点は、注目に値すべきことです。日本では京都に優れた美術品を見極める「目利き」が多くいたといわれますが、西洋で最も目利きの多いフランスで、日本美術が160年前から高く評価されたことは誇りに思うべきでしょう。

 特に日本美術は西洋からすれば、装飾性が高く、産業革命真っ只中のフランスで古い様式を抜け出すことに必死だった美術界では、新鮮さを持って迎えられたのは事実です。それも都市化で美に自然が渇望されていた時代に、自然との共存を重視する日本美術、それも高度な技術と繊細さ、完成度の高さを追求する日本美術は大きな影響を与えました。

 装飾芸術作品の展示作品には、歌川広重、北斎、エミール・ガレ、ルネ・ラリック、倉俣史朗、シャーロット・ペリリアン、田中一光、ジャン・ギレル、ミシェル・ヘルトールなど、日仏の画家、デザイナー、グラフィックデザイナー、ファッションデザイナー、写真家の幅広い芸術メディアの作品1,500点が展示されています。

 さらに建築家、藤本壮介が同美術館ロハン・ウイング3階の2,200m2の展示スペースのデザインを担当し、ディスカバリー、自然、時間、動き、イノベーションの5つのテーマで作品が紹介されています。興味深いのは日仏の作家を並列し、国の持つ固有の文化にこだわることなく、近現代作家たちの作品を見ることができることです。

 無論、日本の江戸時代に成熟した茶道やお香、書道などの日常生活に根付いた生活文化の背景にある精神性も、日本人の時間と歴史に対する畏敬の念を味わう重要なテーマとして扱われています。

 さらに最後の「イノベーションズ」のコーナーでは、19世紀後半からの日本の卓越した技術と芸術性が日仏の美の探求にどのような革新的な影響をもたらしたかを検証しています。そこには三宅一生やコシノ・ジュンコ、川久保玲、ジョン・ガリアーノなどのファッションデザイン、セラミックスや金属工芸、グラフィックデザインなど、幅広い分野の作品が紹介されています。

 日仏友好160周年のさまざまなプログラムを通し、日本文化が今ほど高く評価されている時代はないのも事実です。古い歴史を持つ東洋の一角にある日本が、現代に至るまで優れた美の表現を積み重ねてきたことを、さらに自信を持って世界に発信すべき時が来ているといえます。

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