Emmanuel_Macron_(7)

 金融界出身のスーパーエリートで一度も国政選挙に出たこともなく、史上最年少の39歳でフランスの大統領になったマクロン氏が窮地に立たされています。ガソリン価格高騰に端を発し、昨年5月就任以来、溜まった国民の不満が爆発し、1日には機動隊と激しく衝突し、車や建物への放火、凱旋門への落書などパリ中心部は戦場のようになりました。

 パリだけでデモ参加者、警察官を含め、130人以上が重軽傷を負い、デモ参加者ら421人が拘束され、仏内務省は、今回の抗議デモは「過去数10年で最悪の水準」との見方を示しました。英国やドイツのメディアは、1968年の通称、5月革命以来最悪の抗議運動と報じ、欧州に波及することを懸念する報道が目につきました。

 そもそも既存大政党への失望感から生れたマクロン中道政権は、政治経験の浅いマクロン大統領を中心に、保守と左派の既存政党離脱組の議員や多数の新人議員で構成された新党ん共和国前進によって、下院で圧倒的な議席を占める状態での船出でした。

 その背景には、30年に渡る10%前後の変わらない高い失業率、経済格差拡大、イスラム系移民による頻発するテロ、一向に見えてこない景気回復に失望したフランス有権者の危ない懸けがあったといえます。右でも左でもなく、金融出身のスーパーブレインを持つマクロン大統領が国を変えてくれるのではという期待感がマクロン政権を支えてきました。

 しかし、就任早々、国民が尊敬する仏国防軍トップを国防予算で対立し、「決めるのは私だ」といって辞任させ、昨年9月には国会審議なしに大統領権限で強引に労働法を改正し、今年春には改革の鬼門とされた国鉄(SNCF)改革で、繰り返されるゼネストにも耳をかさず、強引に改革を断行しました。

 今まで誰がやっても変えられなかったことを変えてくれるとの期待感が政権を支えてきた一方、そのやり方は、いつも上から目線で、有能だが一般市民の状況も心もまるで理解できないエリート高級官僚に全ての権限を持たせたような危ないものがありました。

 フランスのエリート主義は、経験よりも頭脳が中心で、日本の官僚主義の比ではなく、学歴と頭脳だけが指導者を支えています。だから親子ほどに年の違うトランプ米大統領に対しても、先の第一次大戦終結100周年記念日で、本人を前にナショナリズムの間違いを正すような説教を平気で行うわけです。

 しかし、態度はともあれ、本当に国を改革し、経済を活性化し、失業率を低下させ、移民問題を解決してくれれば、どんな独裁スタイルでも構わないというのが国民の本音なのでしょうが、結局は結果を出せず、支持率は急落し、今回のデモでは「マクロンは辞任しろ」と叫んでいるのです。

 通常は、労働者階級が中心となりそうなデモですが、実は今回のデモの特徴は自然発生的でガソリン価格高騰はきっかけに過ぎず、全ての階層でマクロン政権への不満が爆発した形で、主催者も不在、主張もバラバラで、政府の交渉相手もいない状態です。つまり、これは非常に政治的に危険な状態に陥っているといえます。

 「決めるのは私だ」という言葉は、最近逮捕された日産自動車のゴーン氏や彼に育てられたリーダーたちに蔓延している態度を想起させます。今の時代、誰からの納得や合意も得られず、一人の指導者の決断だけで、事を進められることは多くはありません。

 個人的には、フランスの病理は私が始めてフランスに足を踏み入れた1980年代後半のミッテラン左派政権にあると見ています。1995年までのミッテラン政権14年間で、高負担高福祉の社会主義的システムが構築され、数で勝る労働者階級の人々は福祉の恩恵を受けた一方、企業は苦戦し、大量のアラブ移民を受け入れたことで移民問題は、やがてテロの頻発に繋がりました。

 右派政権がなんとかシステムを変えようと試みましたが、ミッテラン政権時代に獲得した既得権益を手放すことへ抵抗は、余りにも強く、痛みを伴う改革を受け入れない体質が染みついています。ミッテランは社会主義者でしたが、実は現場を歩いて有権者の声に耳を傾けるより、机上で頭で考えるイデオロギー政治家でした。

 マクロン氏も同じで、抗議する市民に「決めたことを変えるつもりはまったくない」「私に仕事をさせてくれ」という決めゼリフでエリート官僚のような態度です。すでに政権を支えた閣僚が、その強引なやり方を嫌い、次々に辞任しています。

 もう一つ、始末が悪いのは、通常、保守は小さな政府、左派は大きな政府をめざすといいますが、フランスでは両方とも大きな政府、強力な官僚制度維持には、あまり異論がないことです。マクロン氏がルノーと日産の経営統合に熱心なのも、国営企業に近い考えを持っているからです。

 さて、今回の試練を若すぎる大統領は、どう乗り越えるのでしょうか。私の妻を含め、周辺のフランス人は、口々に若さとエリート意識がマイナスになる可能性があると指摘しています。つまり、プライドを傷つけられれば冷静さを失い、さらなる強権に走る可能性があるというわけです。ブレグジットを直前に控えた重要な時期にマクロン氏の政治家としての実力が問われています。

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