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 グローバルビジネスは、国際結婚に似ているとフランス人の妻と30年以上暮らす筆者は密かに思っています。一生添い遂げて、うまくいけば、子供や孫が世界中に拡がり、多くの国境を超えて、一つの国では絶対に味わえない貴重で豊かな体験ができ、うまくいかなければ、同国人同士より、はるかに厳しい恨みが残り、その恨みは個人だけでなく、相手の国に対しても恨みが残る場合もあります。

 グローバルビジネスの先頭に立ち日産・ルノー・三菱3社連合を率いたカルロス・ゴーン会長は、19年前にルノーからフランス人エグゼクティブを率いて意気揚々と乗り込み、死に体の日産をV字回復させた救世主でした。2万人以上を当時解雇したとはいえ、もし、倒産していれば、丸ごと外資に買われるか、引き取り手がなければ消えてなくなり、その経済ダメージは計り知れなかったはずです。

 そんな貢献をしたゴーン会長を会社のビジネスジェットから、鉄格子の拘留所にいきなり追いやったのは、皮肉にも救ってもらったはずの日産自動車でした。飼い犬に手をかまれるどころではありません。無論、十分な証拠を持って有罪にできる確信もあって、所得の過少申告や会社資金の不正な私的使用で逮捕されているわけですから、日産側も苦渋の決断だったのでしょう。

 世界中に高級住宅を持ち、ビジネスジェットで移動し、会社で強大な権力を持つゴーン氏は、成功者のシンボルでしたが、それが一生恩に感じて不正に目をつぶるはずの日産から、地獄に落とされたようなものでした。

 無論、地中海を舞台に交易で財をなしたフェニキア商人の血を引くゴーン氏は、日本人が想像もできないような強靱な精神の持ち主だとは思いますが、それでも地獄に落ちようとした日本人女性を救って妻にしたレバノン人の夫が、報恩精神が強いはずの妻から地獄に突き落とされたような精神的苦痛を感じているかもしれません。

 ゴーン氏が描いていたライフプランは完全に狂ってしまったのは確実と思われ、今後、大企業がトップとして彼を雇うことは困難になるでしょう。日本の閉鎖的な村社会から、恐ろしいしっぺ返しを受けたと思って、日本への憎悪も生れているかもしれません。

 グローバルビジネスは、ある意味、非情な世界です。自国で養われた常識は、時々、ま逆な結果をもたらすことは枚挙に暇がありません。一生懸命、相手企業の利益のために奔走したのに、恐ろしいしっぺ返しを受け、苦しい裁判を経験したギリシャの駐在員の例、散々、飲み食い接待した中国の相手企業が契約ギリギリで裏切った例など、国内で起きるよりはるかに深い傷を負う場合も少なくありません。

 優良大企業だった東芝が主力の半導体事業を売却するまで追い込まれ、奈落の底に落ちた最大の原因が、アメリカの原子炉メーカー大手ウエスチングハウス(WH)を買収でした。日本国内の東電や商社とのトラブルもあったといわれますが、田中元社長は「34年も原発建設から遠ざかっていたWHの腕は錆び付いていて、シミュレーションすらまともにできなかった」と証言しています。

 つまり、東芝は、基礎体力もないのにアメリカで超不良物件を巨額の6,600億円で買わされ、出来もしない工事を受注して、監査法人の警告にも関わらず、経営陣はリスクの先送りを繰り返したことで本体が崩壊していきました。

 一方、プライベートでも、上海や香港でハニートラップに遭って多額の金をもぎ取られた挙げ句、家族も失った例も1件や2件ではありません。グローバルな現場では、誰も見ていない状況が多くあります。誰も知らないところで気が緩み、孤独感のある人間には、様々な悪が口を開けて待っています。

 中国に到着した日本人ビジネスマンが空港税関を通る時に、人の良さそうな人から「自分の荷物が多すぎるので、一つ持ってくれないか」と頼まれ、その中に麻薬が入っていて税関で捕まり、そのまま刑務所に収監されている例は、1件や2件ではありません。

 つまり、グローバルビジネスは、成功すれば巨額の利益をもたらし、発展を遂げることができる反面、常に高いリスクと隣り合わせで、まるで高い高度を長距離飛ぶ旅客機を待ち受けているエアーポケットが沢山あるのと似ています。グローバルリスク耐性は経験の積み重ねからしか得られませんが、常にリスク回避するための内外の万全な準備が必要です。

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