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 グローバルビジネスで最も重要だと思うものは何かという問いに対しては、私は「フィードバック」と答えることにしています。なぜなら、特にヒューマニティへの意識が低く、同質文化の共有度の高いハイコンテクストの日本人には、フィードバックは圧倒的に不足しているからです。

 たとえば、中国の近代都市、深圳で実際にあった事例では、日本から深圳にある工業団地の研究拠点に半年前に赴任したAさんは、中国人の研究チームの同僚5名が、仕事の進捗状況の共有に積極的でないことに非常に苦戦したという例がありました。

 とにかく、田中さんが彼らに聞かない限り、彼らは自分の抱える仕事をするだけで、状況が把握できないというわけです。会社は研究業務を一元的に管理するシステムを導入してはいますが、現場の細かい進捗管理は困難で、特に中国人従業員は進捗の共有をまったくしようとしないというのです。

 そこで田中さんからの彼らへの質問が増えたのですが、ある時、中国人スタッフから「そんなに私がやっている仕事が気になりますか。私はちゃんと仕事していますけど」と言われ、戸惑っています。そこで田中さんは、進捗状況の把握や情報共有のために、研究チーム全体に日本の報連相のシステム導入をしたのですが、今度は報告内容に嘘があることを発見し、戸惑っているという事例です。

 ここでいえることは、いくつかあります。世界中で最も進捗管理にこだわっているのはプロセス重視の日本で、多く国は中国を含め結果主義なので、途中の仕事経過に注意が払われないということがあります。しかし、同時に上司が部下の仕事に関心を持ち、部下がどんな課題を抱えているかについてのフィードバックを軽視している問題もあります。

 さらに、たとえ上司が部下からの意見を聞くふりをしたとしても、部下からのフィードバックを明らかに反映した改善がされていない場合が多く、部下を失望させている例もあります。本来は双方向のフィードバックがマネジメントには必要ですが、上司は命令し、指導する側、部下は従う側として聞くだけでフィードバックの機会が与えられないケースも海外の日本企業では、よく見かけます。

 本来、日本では1970年代までの報連相は、双方向でした。上司と部下は報告し合う関係でした。それがいつしか部下から上司への一方通行の報連相になってしまい、風通しは悪くなったといえます。一つには、アメリカ式にトップダウンのマネジメント手法が入ってきたからともいえます。

 実は商品開発で重要なマーケティングも、消費者からのフィードバックの上に成り立っています。韓国のサムスンがグローバル市場で成功した要因の一つが、途上国の消費者が必要とする家電製品の機能を徹底して分析し、それ以外は削り取ったことにあるといわれています。

 逆に日本は、高性能、高品質、多機能を売りにグローバル市場で評価を高めてきましたが、それを必要とした日本及び欧米先進国がターゲットだったからでした。使いこなせない相手に必要のない機能を満載したまま高額で売るのは新興国、途上国では妥当とはいえません。

 ここでも重要なのは、消費者のニーズを知るためのフィードバックです。歯の未発達な乳児に硬いステーキを与えても仕方ありません。とはいえ性能を落とせばいいという話でもありません。「市場は知るだけでなく、市場は自ら作るもの」というソニーの盛田昭夫の有名な言葉もあります。

 優秀な人は、そうでない人のことが分からず、優秀なエンジニアは高性能の製品を消費者に押しつける傾向があります。同じように途上国での職場で優秀な日本人リーダーが、ナショナルスタッフの能力の限界を理解できず人材育成に苦戦する例は枚挙に暇がありません。

 そこで鍵を握るのが双方向のフィードバックの重要性です。日本国内の数倍のフィードバックを実践し、さらにそのフィードバックを目に見える形で仕事に反映する作業が重要という話です。これはかなり意識を替えなければ実践できず、特にフォードバックを反映させるには、相手への敬意も必要です。

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