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 シリアで3年間、行方不明になっていたジャーナリスト安田純平さんの解放を日本政府が確認した事が発表され、安田さんを温かく迎えるべきか、それとも自己責任論で厳しく追求すべきかが日本では議論されています。理由は解放の影で多くの人が動き巨額の身代金と解放に貢献した国への借りができるからです。

 既存大手メディアの記者ならば、もし、渡航禁止の危険な国に取材に行ってテロ組織に身柄を拘束されたなら、会社の責任の方が問われる話ですが、フリーランスとなれば、全ての行動が自己責任ということになります。ネット上では反日左翼のレッテルを貼る意見もありますが、同じフリーランスの人間としては、複雑な思いでことの成り行きを見つめていました。

 私は第1次湾岸戦争の時に、イスラエルを取材した位で戦場取材に特化したジャーナリストではありませんが、真相を伝えるジャーナリストの基本である現場取材の重要性は、痛いほど分かっているつもりです。安田さんへの同情を禁じ得ないのは、液化天然ガスの日本の購入先でもあるカタールなど、原油輸入で縁の深い中東であるにも関わらず、日本国民の中東への関心は高くないということです。

 シリア内戦が始まって以来、無論、過去に直接的な統治や外交関係があるとはいえ、欧米メディアの中東情勢の扱いは、日本の何倍もありました。無論、海外の紛争に軍事的関わりを持たない日本のスタンスもあり、自国民が兵士として他国の内戦に関与しないために関心度も低くなることもあるでしょう。

 しかし、安田さんがシリアの反政府組織に拘束されて以降の3年間、日本人及び日本のメディアは関心を持ち続けたかといえば、そうともいえなかった。殺されておかしくない状況の中、想像を絶する環境で生き延びてきたで安田さんにとって、最も恐ろしいのは日本国民が関心を失うことだと思います。

 これが大手メディアの記者なら、定期的に情報が流され、国民の記憶から消え去ることはなかったでしょうが、フリーランスは殺害されても自己責任で批判される場合もあるくらいです。無論、そんなことは覚悟でフリーランスをやっているわけですが、関心度が低いテーマは、報道の優先順位が低く、結果として予算も割かれないため、フリーランスはいくつもメディアと契約しなければ取材が成り立たないという現実もあります。

 つい最近、英BBCが中国ウイグル自治区の再教育キャンプの拡大を現場取材で報じました。100万人とも見られるウイグル族の人々が、表向きはテロリストにならないための教育施設としながら、実は強制収容施設に収容されている実態を報じたものです。

 当然、取材は困難を極め、何度も当局に撮影が阻まれながらの取材でしたが、中国政府が絶対に隠したい非人権的行為であることは間違いありません。BBCはかつても中国政府に批判的な報道をした記者が国外追放になったりしていますが、事実を明らかにするための危険は厭わない姿勢です。

 今回は、安田さんの解放には、いくつものポジティブな要素が影響して奇跡が起きたといえます。身柄を預かったトルコは、安田さんを拘束していた武装組織、旧ヌスラン戦線のルーツであるムスリム同胞団と深い関係があり、そのトルコはエルドアン政権の言論弾圧への国際的批判をかわすため日本に協力し、サウジ出身の反体制派ジャーナリスト、カショギ氏殺害でも真相究明に力を入れています。

 中東をめぐる情勢も、安田さんが拉致されてからの3年間で大きく変化し、過激派組織イスラム国(IS)やアルカイダなどはアメリカと有志連合による空爆、ロシアの参戦などで壊滅状態にあり、複雑な構成員だった反政府勢力も、一般市民に大量の犠牲を強いる行動では国際社会の理解を得られなくなっているといわれています。

 日本と重要な貿易関係にあるカタールが、安田さん解放で身代金3億円を支払ったという報道もありますが、中東で昨年、サウジなど6カ国から突然、国交断絶され締め出されたカタールとしては、国際社会に影響力を持つ日本との関係強化は非常に重要です。日本政府もそれを知って動いていたはずです。

 中東情勢を冷静に観察し、特にカショギ氏殺害で大きく変化するパワーバランスの中で、安田さんは奇跡的に解放されたように見えます。その意味で安田さんは強運だったともいえますし、SNS上での安田さんへの批判を恐れ、リベラル・メディアでさえ取材もしていなかったことを考えると、粘りず強く解放交渉を続けてきた日本政府に軍配があがったといえそうです。

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