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 日本は東京五輪を控え、ゲーム観戦と観光のために海外からやってくる、いわゆるインバウンドへの対応が急がれています。迎える側のスキルとして、まずは英語や中国語など言語のマスターは当然のことですが、異なった文化を持つ人々とのコミュニケーションスキルは言語能力にとどまりません。

 私は20年以上前、教鞭を執っていたフランスのレンヌ大学日仏経営大学院の学生を企業研修のために日本に送り込む仕事をした時期がありました。フランスでは3カ月から1年間の企業研修が組み込まれている大学も多いのですが、そんな習慣のない日本で、長期研修をお願いするのに苦労しました。

 まず、日本企業の反応は「お世話する人をつける余裕がない」「英語が喋れる社員がいない」「何をさせたらいいのか分らない」というものでした。バブル崩壊後の長期不況に突入した時期だったこともあり、難色を示す企業は多かった時期で、カルチャーダイバシティもそれほど注目されていませんでした。

 大企業もいくつか受け入れてくれましたが、ようやく受け入れてくれた名古屋の中小企業に送り込んだ女子学生のことは、今でも鮮明に覚えています。なぜなら筆舌に尽くしがたい苦労を強いられたからです。メールだけでは対応できないと考え、帰国時に訪問し、話を聞いてあげたこともありました。

 日本語が中級には至らないレベルのその研修生は、英語が分らない上司から毎日、日本語で感想文を書くようにいわれ、苦労していました。それは日本語の勉強にはなったと思いますが、実は古いタイプの日本人上司は、終始高圧的で1日に何度も研修生である彼女を叱り飛ばしたそうです。

 言っていることがよく分らない彼女は、半年間、泣かない日はなかったそうです。さらに悪いことに、その会社の社員の定着率は非常に低く、毎月のように辞めていく日本人社員がいたそうです。事態を見て、他の会社への移動も提案しましたが、忍耐力のあるブルターニュ地方出身の本人は「最後まで頑張る」といって、とうとう6カ月をやり抜きました。

 彼女はフランスに帰国後、冗談で「私は日本の半年間の経験で1冊本が書ける」といっていました。その彼女は日本でも有名な世界遺産、モンサンミッシェルのビスケットメーカーに就職し、今では日本のコンビニでも彼らの商品を見られるようになり、彼女の活躍を嬉しく思っています。

 かなり特殊な例でしたが、今、インバウンド対策として外国人のおもてなしが日本においては喫緊の課題です。礼儀正しさやおもてなしで高い評価を得ているとされる日本ですが、あとは言語と相手の文化を理解することと考えられがちです。

 しかし、私のように日本を訪れた、あるいは日本に住んでいる非日本人から話を聞く機会の多い立場からすれば、おもてなしが全てとは思えません。たとえば、日本のサービスが世界的高い評価を受けているというなら、なぜ、世界に拡がったホテル日航のサービスは国際的評価を得られなかったのでしょうか。

 フランスは、今や1億人に届く世界一のインバウンドがあるわけですが、実はこのブログにも何度が書きましたが、フランスはサービス面では世界最悪といわれています。つまり、おもてなしは最悪だが、外国人観光客は増え続けている。それもリピーターも非常に多いということです。

 理由は、魅力溢れる世界遺産や美術館、博物館の多さ、世界的に評価を受ける食文化とモードがあるからです。つまり、有り余る観光資源があれば、おもてなしは最重要ではないという意外な例です。とはいえ、パリ市はなんとか汚名を受けるサービスの質を向上させようと、外国人対応の各国おもてなしマニュアルを作成し、改善に力を入れています。

 では、日本のインバウンド対策の課題は何か。無論、言語能力も必要ですが、問題は対応する日本人のマインドセットが必要ということです。たとえば、言葉ができても誤解を招いている例は少なくありません。その場合、その人は超ハイコンテクストの日本人のままコミュニケーションをとっているケースが圧倒的に多いのです。

 文化が違えば、同じ言葉でも極端な場合はま逆の意味になるケースもあります。「疲れた」といわれても、それが休憩が絶対的に必要なレベルなのか、必要ないレベルなのか確認する必要があります。つまり、重要なことは相手の話を正確に理解するための「確認」作業が必要で、そのための質問力も問われてきます。

 さらには、確認した後には共感してあげることが重要で、相手は丁寧に聞いてくれただけでなく、共感までしてくれると、心を開くものです。共感するには私を主語とした私言葉で自分の感情を伝える必要がありますが、本音は常に隠す文化で育った日本人は、ほとんど日常でしていないことです。

 さらに人は困ったときに問題解決してくれることに感謝するものです。いくらおもてなしで世話をしても、それが当て外れだったり、過剰すぎても不快感を与えます。特に長い間、外国人観光客が日本を敬遠したのは、なんでも高いという経済的イメージが理由です。

 無論、世界一物価が高いといわれるスイスに観光客が大量に訪れるのは、それだけの価値の高い観光資源があるからです。それはともなく、自分の国では考えられない2畳程度の広さの部屋に宿泊するアメリカ人やヨーロッパ人は、ひたすら経済的理由でそれを受け入れているだけで、それ以外の理由は、ほとんどありません。

 彼らが日本で遭遇するさまざまな問題に的確に対応し、問題解決するスキル、それもネット上で英語などで調べても載っていない有益な情報を提供することが重要です。それとやはり外人という荒っぽいくくりは危険です。均質性の高い日本ではせいぜい白人、黄色人種、黒人という肌の色で分ける程度ですが、それはあまりにも大雑把すぎます。

 しかし、その異なった文化を詳しく学ぶのは大変です。それよりもより精度の高いコミュニケーションを取ることで、相手の価値観、好み、性格、求めているものを学習する方が実践には役立ちます。偏見を持たず、同じ人間なんだという基本スタンスを忘れることなく、しかし、しっかり違いを認識し、的確に対応することが求められているということです。

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