Centre_d'Aix-les-Bains_depuis_la_gare_SNCF
     フランスの温泉地、エクスレバンの中心部

 2017年にフランスを訪れた観光客数は過去最高の8,900万人。こんな数字が今月4日、フランス外務省から発表されました。2024年のパリ五輪を控え、2020年には観光客のインバウンド1億人越えを目標に掲げるフランスは、実は30年連続、外国人観光客数世界1位を更新し続けており、今年は9,000万人に達すると予想されています。

 今回、公表された数字は、2015年からのテロの頻発で受けた観光へのダメージが完全に回復したことを意味しています。政府が外国人観光客1億人を最初に口にしたのは、2015年1月、当時のファイウス外相で、特にフランスの食文化を世界にアピールすることに力を入れました。パリでテロが起きた直後のことで、テロには屈しない政府の姿勢を印象づけました。

 人口6,700万人のフランスに9,000万人のインバウンドがあり、観光収入でも世界4位のフランスに日本も刺激を受けているようですが、興味深いのは外国人観光客が訪れる日本の観光地が、日本人が考える観光名所とは違っていることです。これは相当、研究の余地のある話です。

 フランスが観光大国として成功している要因の一つは、ユネスコの世界文化遺産、自然遺産、複合遺産を合わせ44(日本は22)もあり、紀元前の遺跡からフランス料理まで豊かな観光資源があることは否定できません。しかし、人は世界遺産だけで集るわけではなく、さまざまな魅力が人を惹きつけるわけです。

 私自身、日本全国に名の知れた温泉観光都市、九州の別府で生まれ育ったことから、観光政策はジャーナリストとしてもビジネスコンサルとしても興味を持ち、実際に関わった経験もあります。フランスと日本を比べ、最も顕著な違いは観光と街づくりの関係です。

 欧米には、その国の文明度は都市を見れば分かるという尺度があります。世界遺産はその文明の足跡を登録し保護する作業でもあります。大都市ならば政治・経済力から、インフラ整備を支えるテクノロジー、町の安全を含めた暮らしやすさ、独創性、芸術的側面までが文明度を計る尺度です。

 一方、地方の小都市や村の場合は独自の歴史があり、食文化があり、自然との共存などの大都市では味わえない快適さの魅力があり、それも多様です。フランスの観光行政の専門家と話をすると、必ず彼らが強調するのが、フランスの地方文化のダイバーシティです。

 それも町や村全体のユニークさを大事にしており、まず、フランス人自身の休暇の過ごし方と大きく関係しています。別荘を持つ人が多いフランスでは、大都市の喧騒を離れ、週末や長期休暇を過ごす場所が必要とされ、安らぎを与える環境が求められます。

 その場合、歴史のある美しい村や湖、森や海岸などの自然、それにその地域独自の食文化も必要です。観光地に大挙して行って、土産品を買いあさって帰る観光スタイルとは違い、とにかく、ゆっくり歩き回るのが基本です。それに欧米人が好んで訪れる場所では「こんな所に住んでみたい」「老後はここに住みたい」などの声がよく聞かれます。

 つまり、人口的に巨額の資金を投じて観光開発するというよりは、住んでいる人も快適さを感じる魅力的な街づくりが基本にあるという話です。逆に夏の長期ヴァカンス期を中心に外国人観光客が集中する南フランスやイタリア、スペインの村では、村人が増えすぎた観光客にうんざりし、人数制限が始まっており、過度の観光化を嫌う現象も起きています。

 日本の観光地は、1つの観光資源の周りに山のように土産品が並び、人は大型バスで大挙して訪れ、短い時間に観光と買い物、食事をするスタイルが一般的です。アジアの人はそれでいいのかもしれませんが、欧米人の過ごし方とは違います。無論、ヨーロッパにも効率的に観光地を回るツアーはありますが、それが基本というわけではないのです。
 
 もう一つは、フランスは特にイメージ戦略に長けているということです。2015年のテロ後のフランスでは、観光客の回復に向けて40か国・地域の市場で約2000万ユーロ(約26億円)をかけたプロモーションを実施し、その約7割をデジタルマーケティングに費やしています。

 そこで、ノルマンジー、ボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュ、ガスコーニュなどの地方の多様性をブランド化して打ち出すことで、イメージの拡大と定着を推し進めています。フランスはかつてエコールドパリといわれた19世紀末から20世紀初頭、世界中から多くの芸術家を集め、芸術大国というイメージ化に成功した経験を持ちます。

 イメージ戦略の基本は発信力であり、その発信させる内容を洗練させることです。その時にフランス人自身が魅力を感じる要素が重要になってくるわけです。たとえば有名な遺跡のすぐ側に、コンビニやファーストフード店、工場などがあっては興ざめです。古い街並みを壊さないための工夫には神経を尖らせているわけです。

 フランス政府によれば、2017年の観光収入の合計は540億ユーロ(約7兆円)でしたが、2017年にスペインが突破した600億ユーロを2020年までに達成したいとしています。ただ、フランスでも地域による観光客の増減は、外国人観光客の行き先に左右されている側面もあります。

 フランスのように黙っていても世界中から観光客が集る観光大国ではない日本の場合は、まずは外国人観光客のモニタリングが必要でしょう。彼らに実際体験してもらい、問題点を洗い出し、改善を重ねていく必要があります。その点は閉鎖的村社会の日本が克服すべき点だと思います。日本人が感じない魅力を外国人が感じることは多くあるからです。

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