アメリカ最高裁判事に指名されたブレット・カバノー氏の性的暴行疑惑は、米連邦捜査局(FBI)の追加調査が終了し、採決の行方が注目されています。しかし、全米どころか世界中に繰り返し流される高校時代の被害者、クリスティーン・フォード女史の露骨な証言、時に感情的になり、疑惑を全面否定するカバノー氏の公聴会でのやりとりに嫌悪感を持つのは私だけでしょうか。

 子供から大人まで誰でもが試聴できるテレビで全米に放映された公聴会の様子は、アメリカでは中学生や高校生も学校の休み時間にスマホに釘付けになったといいます。そして、ABCテレビなどによると、試聴した未成年者の多くはフォード氏に同情し、中にはカバノー氏は刑務所に入れるべきという意見もあったと伝えられています。

 今回のカバノー氏疑惑の一連の動きは、ハリウッドの有名プロデューサーに対するセクハラ告発以来、被害に遭った女性たちが声をあげる動きが加速し、MeToo運動が高まりを見せていることと連動しているのも事実でしょう。

 ただ、私が気になるのは、過去にはどの国でもタブー視され公に語られることがなかった性的問題が露骨に報道され、それを試聴する子供への影響が考慮されない時代に入っていることです。伝統的保守主義の福音派のアメリカの友人は、この種のテレビ放映が始まると子供への害を考え、チャンネルを変えているといっています。

 これがフランスなら、たとえ大統領候補者でも10代に犯した飲酒による性的不品行が問われることはないといえますが、性的モラルや人権を追求するアメリカで逆に性的描写が露骨になっている現実は、皮肉というしかありません。

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 最高裁判事指名では27年前に黒人判事候補者トーマス氏の指名を巡り、元部下であった黒人女性、アニタ・ヒル女史のセクハラ疑惑がありました。政治家ではなんといってもクリントン元大統領が大統領執務室で行った研修生との性的行為があり、トランプ大統領も元ポルノ女優との疑惑を抱えています。

 この種の問題は非常にデリケートな問題で犯罪立証が難しく、どちらの言い分を信じるかという信頼性が決め手になったりします。今回のカバノー氏疑惑もそうですが、どちらかが嘘をつき、作り話をしている可能性があるということです。裏には現政権を嫌悪する民主党やリベラルなメディアの政治的思惑も指摘されています。

 法と秩序を重んじ、社会正義を追求するアメリカ人は、法廷を見るのが大好きです。山のように法廷ドラマが作られ、世界中で放映されていますが、真相を暴く過程は、いつも犯罪者の保身による嘘に満ちています。

 保身のためにつく嘘は人間が生き抜いていくためには時として必要という考えは、アメリカだけでなくヨーロッパでも一般的です。日本では嘘そのものが罪悪と考えられていますが、中国や韓国でも嘘は大罪とまではいえません。

 海外の職場で日本人は、ナショナルスタッフがミスを認めず、謝罪せず、言い訳が多いことに驚かされます。アメリカには正直を価値とする考えがあるにも関わらず、保身と自分の評価を上げるために上司に嘘の報告をする、作り話をするのは日常茶飯事です。

 日本には「正直者が馬鹿を見る」という考えをありますが、これは良心の問題です。私は、保身のために真実を闇に葬りさるためにつく嘘や、政治目的のために作り話をすることの本当の犠牲者は子供だと考えています。今回のカバノー疑惑でも、誰かが嘘をつき、作り話をしているのは明白で、醜態を晒しているわけです。

 これを目撃する純粋な子供たちは、良心が麻痺した大人の嘘に覆われた世界を目撃するわけです。それも性的不品行という本来、子供が知る必要のない問題が加わっている。中には「法廷は教育だ」という人もいます。悪は明らかにされ、裁かれるということを見せることが教育になるという意見ですが、だからなんでも見せていいという話でもないはずです。

 セクハラ被害の告発は、女性の尊厳や人権を守るという意味では非常に重要なことですが、その一方で子供に深刻なダメージを与える内容が含まれていることも考慮すべきでしょう。これにもし政治目的が含まれているとすれば、とんでもない偽善といえます。

 どちらの主張が真実かは別として、態度を明確にしていない共和党議員に対して、反対票を投じなければ、次の選挙で政治生命を絶ち民主党候補に勝たせるとして、カバノー氏承認阻止のためにクラウドで選挙資金集めする動きは、民主主義をはき違えた恐喝に等しい行為といわざるを得ず、アメリカの民主主義の劣化を見るようです。

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